第48章−4 異世界の面会はドキドキです(4)

 どちらの世界がいいか、と聞かれたら、やはり、こちらの世界の方がいいと思う。


 衣食住が豊かだし、オレがいた世界よりも洗練されている。

 光に満ちて多彩な世界は眩しくて……そして、この世界にはシーナの転生者がいる。


 だとしても、オレは元の世界で三十六回も魔王として『夜の世界』を統治していた。


 『夜の世界』は常に食糧難という問題を抱え続け、年から年中ずっと夜で、夜明けが来ることはない。


 でも、オレはそんな中でも懸命に生きている民を愛おしいと思っている。

 オレが庇護している民には、少しでもよい暮らしをしてもらいたい。


 元の世界には自画自賛のオレの自信作、『夜の世界』統治マニュアルを残している。このときのために、幹部連中はオレがしっかり教育しているから、オレがいなくても問題なく『夜の世界』を導いてくれるだろう。


 ただ、今回ばかりは、不安で仕方がないんだ。


 召喚された三十六番目の勇者が容赦ない一撃抹殺なヤツだったので、自慢の幹部連中がどれだけ生き残っているのか把握できていないまま、こちらの世界に来てしまったからだ。

 唯一の気がかりといってもいいね。


 流石に、全滅……ってことはないだろうけど。

 回復復帰に時間はかかるだろうけど、虫の息で生き延びたヤツもいるだろう。

 ……いや、ひとりでもいいからいて欲しいよ。


 今回はいきなり勇者が乗り込んできたので、避難させた文官たちに権限の譲渡をするヒマがなかったんだよね……。

 権力集中を避け、色々と役目を分散させたのが裏目にでてしまった。

 命令系統は大丈夫かな。


 人手不足で、ブラックな環境になっていたら、生き残った幹部たちが生地獄を味わうので気の毒だよ。


 次からは、勇者接待に幹部全員参加はやめた方がいいかもね。くじ引きかじゃんけんで接待要員を決めようか。リスク回避は必須だよ。


 それにしても……リーダー不在ってことにはなっていないだろうな?


 魔族が住んで、常に夜の闇に包まれている世界であっても、オレが統治している場所は、みんなに優しい住みよい世界をめざしている。


 魔族の住処が魔界だとか、地獄である必要はないからね。


 リーマン勇者たちは、働き詰めで大変そうだったからなあ……。


 人手不足な職場はブラックな職場になってもおかしくない。


(やっぱり心配だ。元の世界に戻りたい……)


 今回もまた、オレは『愛する人』よりも『世界』の方を選ぶのだろう。


 わぁわぁ泣いて、べたべたくっついてきて、おまけに鼻水もベタベタくっつけたミスティアナは正直なところ鬱陶しいけど、アナスティミアもアナスティミアで、ひじょ――に嫌な存在だもんね。


 二者択一で、どちらかを選べと言われたら……オレは迷うことなく、ミスティアナを選ぶよ。

 貞操の危機と、鼻水でカピカピになった服……どちらがより我慢できるかというと、答えは決まっている。カピカピになった服だろう!


 そんなことをミスティアナに言ったら、あのポンコツ女神は増長して暴走するだろうから黙っておくけど、アナスティミアの世界に長居したら、オレの貞操がマジで危うい。


 ぼーっとしてたら誰かまわず犯されて孕まされそうで、ガチで怖いよ。


 だって、アナスティミアってみるからに肉食系女神だったよな……。


 異世界脱出計画を練ろうとしたときに、フレドリックくんが再び口を開いた。

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