第48章−3 異世界の面会はドキドキです(3)

 そういえば、歴代勇者たちの恋愛事情は多彩だった。


 ひとりの異性との愛を貫いた勇者もいれば、元の世界にいるという好きな人の元に戻った勇者もいる。


 そして、欲をだしてドロドロ愛憎劇になった勇者もいれば、見事、こちらの世界で円満ハーレムを築いた勇者もいる。

 王女様とケッコンして、王様になった勇者もいたなぁ……。タマノコシってやつだよね。


 ……今までのことをざくっと思い出してみたけど、歴代勇者の恋愛事件簿は、残念ながらあまり参考になりそうにもないよ。


 こちらの世界にはピンクの禁書庫があるじゃないか、と一瞬だけ思ったけど、思考と嗜好があまりにも過激すぎて、オレにはついていけそうにもないね。


 オレは……その……アレヤコレヤは、やっぱり、義務や仕方なく、という流れではなく、好き同士、両者合意の上で……だと思うんだよねぇ。


 駆け引きや誘惑テクニックは、アリだと思うけど、魅了の魔法を使ったり、スキルや女神のギフトに影響されるのは、正直なところイヤだよ。


 フレドリックくんは大好きだよ。

 やるなら、フレドリックくんとならできるよ。やりたいよ。ずっとやっていたいし、オレの側から離れないでほしい。


 でもね、なんだろうね。


 フレドリックくんとやればやるほど、すっごくモヤモヤするんだよ……。


 オレはなにに対して、モヤモヤしているんだろうか?


「勇者様……あの……」

「どうした?」


 オレは目を開け、フレドリックくんを見上げる。

 フレドリックくんはとても心配そうな顔で、オレを見下ろしている。


「いえ……その……お体の具合が悪いようなら、医者に診てもらいませんか?」

「大丈夫。身体の調子はいいよ?」

「でも……元気がありませんよ?」

「そんなことないさ」


 そう答えると、オレは再び、目を閉じる。

 フレドリックくんの溜息が聞こえたが、そのまま目を閉じつづける。


 なにか言いたそうだが、フレドリックくんはなにも言わない。


 こういうとき、ドリアだったら「マオ! 大変だ! 今すぐ、医者のところに行くぞ!」と言って、オレを医者のところまでひきずっていくか、医者をオレの前にひきずりだしてくるだろう。


 フレドリックくんは、オレが望むことしかしてくれない。


 だから今も、黙って膝枕としてオレの側にいてくれている。


 やるときも、絶対、オレから誘わないとやってくれない。


 まずはオレの希望を知ろうとして、それを叶えようとする。


 それがフレドリックくんの意思であり、喜びといえばそうなのかもしれないけど……それはそれでオレはとても寂しい。


 オレだって、フレドリックくんの望みを叶えてあげたいのに……。


 そして、フレドリックくんのことを考えると、セットでというか、もれなくドリアがくっついてくる。


 だめだ、だめだ、とわかっているのに、どうしても「フレドリックくんなら……」「ドリアなら……」とふたりを比べてしまうんだ。


 そんな浅ましい自分自身に、オレは嫌気がさしていた。


 どちらか選ばないといけない……と思う。

 この世界なら、どちらかをあえて選ぶ必要がない……ということはわかっている。


 好都合。

 ラッキー。


 って、手放しで喜べないオレは、やはりこちらの世界には馴染めそうにもない。


 そして、どちらも選んでしまうと、オレは……もう、元の世界に戻ることができなくなるのではないか、と考えている。

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