第45章−4 異世界の護衛騎士は◯◯◯です(4)※

 記憶系のスキル補助がないと、記憶が混乱して、幼少期は大変だっただろう。

 フレドリックくんが気の毒すぎる。


「大変だったんだな」

「魔王様ほどではありませんが……」


 いや、そんなことはないよ。


 オレはスキルがちゃんとあるから大丈夫だよ?


 討伐されるときに、ちょこっと死ぬくらい痛い思いをして、魂のカケラになるくらいだから。

 ちょっとだけ我慢すれば、それで済むことだから。


 三十五回も経験しているベテランだしさ。

 耐性ってものができているんだよ。


 それにさ、フレドリックくんは知らないだろうけど、痛みもある程度、極めてしまうと、快感として感じることができるようになるんだぞ。


 たぶん、フレドリックくんが心配するほど、耐えられないような痛みをオレは感じていないし、オレは苦しんでないからね。


「女神様はわたしの願いを叶えてくださり、ちゃんと記憶を消してくださったのだと安心しきっていたのに。二十四日目になって突然、シーナのことを話されて、しかも、シーナのせいで世界が半壊し、『昼と夜の世界の間』がなくなったとか。……聞いていて思わず悲鳴がでそうでした」 

「それは……すまなかった」


 うん、色々と悪いことをしたな……。

 びっくりしただろうな。

 やっぱり女神は信用しちゃだめだな。


「でもさ、オレにナイショでシーナとの記憶を消そうと考えたのは、許せないな」

「申し訳ございません」


 しばらくは、このネタでフレドリックくんを脅して、思いっきり甘えることができそうだね。


 フレドリックくんにはナイショだけど、シーナとの記憶と世界のどっちが大事かって聞かれたら、オレはシーナとの記憶を選ぶからね。


「あの女神はポンコツだからな。いつも、オレがフォローしないと、あの世界は上手く存在できないんだ」

「そのようですね……」


 そろそろ昔を語り合うのも終わりに近づいてきた。


 空白の時間は言葉ではなく、愛し合うことで埋めていきたい。


 フレドリックくんもそれを望んでいる……と信じさせて欲しい。


 慈しむようにオレを撫でていたフレドリックくんの手が、だんだんときわどいところへと伸びてくる。


 これから始まることに胸を踊らせながら、オレはフレドリックくんにすがりついていた。


 ****


 すっかり明るくなってしまった室内で、オレは何度も何度も嬌声をあげる。

 叫びすぎてだんだん声が枯れてきたが、そんなことどうでもいい。

 オレが施した寝室の防音魔法は完璧だ。

 さらに施錠の魔法も忘れずしっかりとかけている。

 どんなに叫んでも、乱れても外には漏れることがないだろう。


「……魔王様は、エルドリア王太子殿下の方がシーナだとは思わなかったのですか?」

「え?」


 フレドリックくんがそんなことを尋ねてきた。


「ドリアがシーナ?」


 フレドリックくんはいきなりなにを言いだすんだろう?

 キョトンとした顔でフレドリックくんを見る。


「肌の色が違うだけで、容姿はシーナそのものですよ?」

「……そう言われてみれば……そうなのかな? まあ、たしかに……似ている?」

「似ているではありません。まんま、そのままです。なので、せめて髪型だけは変えてやろうと……」


 そうなのか?


 そういうものなのか?


 シーナの記憶があるフレドリックくんにしてみれば、鏡で見ていた自分の姿が、出現して勝手に動いているような感覚なのか?


 それは……落ち着かないだろう。


 シーナとそっくりなドリア。


 だからオレは、ドリアにも惹かれているのか?


 いや、それは違う。


 シーナがあんな残念な子だったら、ものすごくイヤだ。ありえない。


「ドリアはドリアだよ。見た目は似ているかもしれないけど、魂の色は全く似ても似つかないよ」


 オレの言葉にフレドリックくんはなにも応えなかった。ただ、かすかな微笑みを浮かべただけである。

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