第45章−3 異世界の護衛騎士は◯◯◯です(3)
互いの体温が心地よい。
身体の上に降り積もる羽毛がくすぐったい。
「思い出すはずがない……と油断しておりました」
「というと?」
「実は、わたしが転生する前に、聖なる女神ミスティアナ様にお会いしました。そのとき、セナからシーナの記憶を消していただくようお願いしましたから」
(なんだって……?)
「魔王様はとてもお優しい方です。そして、とても誠実な方です。死後、わたしのことをいつまでも想ってくださるのはわかっておりました。なので、わたしは……わたしのことなど忘れて、魔王様には、わたしよりももっと伴侶にふさわしい方と出会っていただいて、幸せになっていただきたかったのです」
「非道いな。それに、傲慢な思い上がりだ」
「申し訳ございません……」
これでフレドリックくんの謝罪は何度目だろうか。
「できれば、魔王様が『わたしがいない』と気づく前に、女神様にはシーナに関する記憶を消してほしかった……。魔王様が、わたしがいないことで、傷つき、悲しまれるのを防ぎたかったのです」
シーナなら考えそうなことだね。
フレドリックくんの声がだんだんと単調で無機質なものへと変化していく。
彼もまた、苦しみと戦っているのだろう。
「魂のカケラ状態のときや、復活直後に魔王様の記憶を操作するのは……」
「そ、それは……ちょっと。下手したら、廃人になってしまうじゃないか」
魂の状態が不安定で脆いときに、記憶への干渉は難易度が高すぎる。それはやめて。やらないで。
ミスティアナって、見た目通りのドジっ子だから、間違いなく記憶消去に失敗するぞ。
うん、失敗確定だ。
成功するビジョンが全く見えない。
「女神様もそれは危険だから、魔王様が安定期に入られてから、気づかれないように徐々に記憶を消していく……と約束してくださいました。ですが……」
そうか。ミスティアナもそれくらいの知識と分別はあったんだな。助かったよ……。
普通はそういう判断をするだろうな。
また、記憶を消す相手が高レベル魔王となると、記憶消去は難易度が高まるよね。
成功率をあげるため、相手に負荷を与えないためには、安定期を狙うしかないだろう。
ああ……。そうか。
女神がオレの復活に気づく前に、オレは復活した直後にシーナに会いに行ってしまったのだ。
いつもは受動的なオレが、積極的に行動をはじめたので、ミスティアナもさぞかし慌てただろうね。
シーナに会いたい一心で、オレは予定日よりも早く復活していまい、しかも、すぐに真実を知ってしまった。
そして、あっけないほどに、簡単にオレは壊れてしまったのだ。
その惨状は、以前、フレドリックくんに話したとおりだ。
記録とそのときの生き残りから話を聞くことでしか知り得なかったことが、今ではありありと思い出せる。世界が半壊するまでオレは暴れまくった。
狂乱状態になったオレの記憶から、シーナの部分だけを消してもどうにもならないくらいにオレは壊れてしまい、仕方なくミスティアナは、オレの記憶をごそっと封印したのだろう。
「聖なる女神ミスティアナ様は、ずいぶんと中途半端で雑なお仕事をされるようですね……」
フレドリックくんの深い溜息が聞こえた。
不敬ともとれる言葉だが、その通りなのでオレは同意することはできても、否定することはできない。
ポンコツ女神は、誰に対してもポンコツ全開だった。
「女神様は、理不尽な死に方をしたわたしを憐れんでくださいました。肉体を失った直後のわたしの魂を拾い上げ、お声をかけてくださった。……までは、よかったのですが……」
「…………?」
「前世の記憶と魂はそのままの状態で、転生させるから、もう一度、魔王様と幸せになりなさい、というありがたいお言葉を頂き……。でも、誕生してみたら、魔王様のいらっしゃらない異世界に転生してしまったのです。そして、また、王太子候補とか……」
うわあ……。
これって、なにかの罰ゲームか?
嫌がらせか?
っていうレベルだよな。ひどすぎる。
しかも、転生先はあの肉食女神が管轄するトンデモ異世界となると、あまりにも悲惨すぎる。
さすが、安定のミスティアナだ。
ヘッポコすぎる。
「しかも……」
(まだあるのか!)
「転生時になにか手違いがあったのか、前世の記憶だけではなく、さらにその前の前世の記憶まで思い出してしまい……」
あっちゃ――。
ダメダメじゃん。
あの女神、どんだけ手抜きなんだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます