第44章−4 異世界の謝罪は長いです(4)
フレドリックくんの主張ももっともだ。
力のこもった目で見つめられ、オレは言葉を失ってしまう。
でも、やっぱり、この罪はオレの全てをもって、オレ自身が生涯をかけて償わなければならないことだよ。
とはいえ、オレにはスキルがあるから生涯に終わりはなく、何度も復活してしまうけどね……。
オレが選んだ贖罪は、オレ自身の自己満足でしかないんだ。
だからフレドリックくんがあれこれ思い悩むことじゃないよ。
それを説明しても、この石頭はきっと自分を責めつづけるのだろうけど。
いつだったかな?
フレドリックくんとお茶を飲んだとき……ドリアの『常にお側に寄り添う方』になって欲しいとフレドリックくんに頼まれたときだ。
そのとき「特別なヒトは、オレにはいらない」と答え、過去のことをぽろりと漏らしてしまったのがまずかったのだろう。
いや、まずいに決まっているよ。
あれは、激まずだった!
気づいていなかったとことはいえ、あの言葉は、相当なダメージをフレドリックくんに与えてしまったはずだよ。ごめん、フレドリックくん!
「……だったら、次はちゃんと約束を守れ。今回は上手く生きろ」
そう、フレドリックくんには生きて天寿をまっとうして欲しい。
シーナの二の舞いにはなってほしくないからね。
「……わかりました」
「じゃあ、そういうことで」
「いえ、まだあります」
(まだあるのかっ! ありすぎ!)
「聖女様の暴走は許したぞ?」
「それも謝りたいことなのですが……」
「いや、もう、その謝罪はいいから」
床にガンガン頭を打ちつけて謝っていた騎士団長サンの姿が脳裏に浮かぶ。
謝罪が大好きすぎる親子だよ。
「申し訳ございません!」
「フレドリックくん、もう頭を上げてくれよ……。オレをそんなに困らせて楽しいか?」
謝罪大会はもうお腹いっぱいだよ。
「申し訳ございません」
「いや、だからなにに謝っているんだ?」
一向に顔をあげようとしないフレドリックくんに、オレは苛立ちを覚え始める。
「フレドリックくん?」
そうだよ。そうだよ。シーナはこういうヤツだったよ!
「……魔王様が」
おっと、ようやく、話す気持ちになってくれたようだ。
「……魔王様が、この世界に召喚されてしまったのは……わたしのせいです」
「…………は? はああああっ?」
申し訳ございません。と、さらに頭を床にこすりつけるフレドリックくん……。
ちょ、ちょっと、フレドリックくん、それはどういうことですか?
この告白にはさすがのオレも驚いた。
「先代の大神官長が行った勇者召喚の儀は、魔法陣に間違いがあり、魔力が足りずに失敗するはずでした」
「うん。女神様もなぜ召喚できたのか不思議がってたな……」
魔法陣を記憶していたオレも、後でゆっくり見直してみたら、間違いがあったことには気づいていた。
というか、間違いだらけだった。
正直、あの魔法陣は使えない。
使うとヤバいやつだ。
まあ、未知の魔法研究は、間違いを修正して研鑽していくものなので、最初のスタート魔法陣として評価するなら、上出来な部類に入る。
不安定要素が多く、必要魔力量も無駄に多くて、とても非効率な魔法陣ではあるが。
「あのとき……大神官長が勇者召喚の儀を行っている最中に、わたしは……魔王様にもう一度でいいからお会いしたいと思ってしまいました」
「…………」
フレドリックくんは、『辛うじてベッドの体裁を保っているモノ』に額をこすりつけたままだ。
(ああ……そういうことか)
大神官長の不完全だった部分を、フレドリックくんの強い『願い』が補完してしまったんだ。
行っている最中……とフレドリックくんは言ったが、実際は、ずっと、ずっとオレに会いたいと願いつづけて生きてきたのだろう。
そのひたすら想いつづけた強い願いが、オレをこの世界に喚んでしまったということか。
それくらい『強い』想いがないと、あの欠陥だらけの魔法陣だけで、異世界から人は召喚できないからね。
「それじゃあ……フレドリックくんの願いを叶えたら、オレは元の世界に戻れる……というわけだな」
フレドリックくんの側ににじりよると、手を添えて彼の上体を起こす。
「理論上はそうなります」
「だったら、フレドリックくんの願いを教えてくれる?」
オレの質問に、フレドリックくんは目を伏せ、一瞬だけ迷いをみせる。
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