第43章−5 異世界のコメはドロドロです(5)

「あ――。やっと……夜になった……」


 そう言いながら、オレはフカフカベッドへと思いっきりダイブする。


「もう、イロイロありすぎて疲れたよ――」


 この寝室も一週間ぶりだ。


 ひとりで寝るのには広すぎるベッドの上で、ぽふん、ぽぷん、と身体がバウンドし、フカフカお布団にすっぽりと包まれる。


 オレを迎え入れたフカフカお布団は、とても良い香りがする。


(めちゃくちゃ落ち着く……)


 ようやく馴染んできた枕を胸に抱きかかえると、オレはゴロンと寝返りを打って……天井の木目が目に入り、慌ててうつ伏せになる。


 布団はとってもいい匂いがした。

 そして、寝室に焚かれた香も、いつもどおり上品な……?


 あれ?


 このお香って、フレドリックくんの匂いによく似てないかい?


 リニー少年の子どもらしからぬ心遣いに、思わず赤面してしまう。


 枕といっしょにジタバタしているオレを、フレドリックくんは生暖かい目でしばし見守っている。


 オレにはよくわからないけど、父親が幼い子ども見守るような目線に近い……んじゃないかな?


「…………」


 だからなのか?


 お父さんモードになっちゃったフレドリックくんとは、なにもイベントが発生しない?

 てっきり、昼の続きがあると思ったのだが……。


 オレが上体を起こすと、フレドリックくんと目があった。


「それでは、勇者様、わたしはこれにて失礼いたします」

「え?」


(ふ、フレドリックくん? 失礼って……)


「今日は、ごゆるりとお休みくださいませ」


(ええええっっ!)


 フレドリックくんは、優雅に一礼して、部屋からでていこうとする。


「まって……!」


(待って! 待ってくれ! フレドリックくん! オレをひとりにしないでくれ!)


 急いで手を伸ばし、立ち去るフレドリックくんを引き留めようとするが、あと少しというところで手が届かない。


 オレの手はそのまま宙をさまよって、勢いがついていたオレはそのままベッドから転がり落ちそうになる。


 オレはインドア派な魔王だからな。

 運動系のスキルは上手く使いこなせないんだよ。

 回避力とか上げすぎて、勇者がオレを討伐できなくなったら困るでしょ?


「うわっ!」

「危ない!」


 床に激突する寸前、フレドリックくんが床の上に滑り込んでオレを抱きとめてくれた。

 オレはフレドリックくんを下敷きにすることによって、床への直撃を免れる。


 文字通り、フレドリックくんは身を挺してオレを護ってくれた。


 そう、彼はいつもそうだった。


 オレが傷つくのをとても嫌がって、オレに危害が及ぶのをものすごく恐れていた。


「勇者様……お怪我はございませんか?」


 オレをフカフカベッドの上に戻すと、フレドリックくんは膝をついてオレの顔を覗き込む。


「怪我はない」

「よかったです……」


 硬かったフレドリックくんの顔が少し緩む。


「フレドリックくんは?」

「勿体ないお言葉……。わたしは大丈夫です」


 立ち上がろうとするフレドリックくんに、オレは懸命にすがりつく。


「行かないでくれ」

「まだ、木目が怖いのですか?」

「違う!」


 天井の木目が怖いからじゃない。

 いや、正直なトコロ、まだちょっと怖いけどな。


 今日はずっとフレドリックくんと一緒にいたいんだ!


 言葉ではなく、行動でオレは自分の意思をフレドリックくんに伝える。


 ベッドの側で膝立ちになっているフレドリックくんへと抱きつくと、オレは急いで唇を重ねた。

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