第43章−4 異世界のコメはドロドロです(4)

 勇者たちのソウルフードと、オレが彼からもらったオニギリなるものが、同じものなのかはわからない。


 ただ、とても美味しくて、次に復活したときは、彼と一緒にコメの栽培を研究したり、ショーユやミソのレシピを教えてもらうつもりだった。


 ショーユやミソはオニギリだけでなく、他の料理の調味料としても使えそうだったからな。


 だけど……オレが復活したとき、オレは彼と会うことはできなかった。


 それだけではなく、怒りのあまり勢いだけで、彼の残したレシピごと彼の国を滅ぼしてしまった。


 なので、オレのいた世界には、コメもショーユもミソもない。


 だってさ、彼をさんざん貶めておいて、彼が存在していたことすらなかったことにしておいて……。


 彼の功績だけをちゃっかり横取りして、食糧難が解決したってウハウハしているなんて……。


 許せないじゃないか。


 コメもショーユもミソも彼がいるから意味があったものだ。


 彼がいないのなら、彼と一緒に消えてなくなってほしい。


「オニギリとは、具体的にどのような料理なのでしょうか? コメの原産国に行けば、見つけることができるでしょうか……」


 リニー少年はオニギリに興味津々だ。

 もしかして、オレに食べさせたいと思ったのかもしれない……。


「リニーくん、オレの知っているコメと、こちらのコメの形状が違っていたから驚いただけだ。あまり、シェフを困らせるなよ。蜂蜜のような騒ぎにはしたくない」

「ええっ。そんな……」


 オレの発言に、リニー少年はしょんぼりとうなだれる。


 その様子だと、シェフに無茶振りするつもりだったんだな。

 いやあ……先に警告しておいてよかったよ。


 以前、うっかり蜂蜜が美味しいと口にだしてしまったばかりに、かつてない単花蜜集めの大ブームが到来し、今の養蜂業界……蜜蜂を使役できる庭師たちが大変なことになっているらしい。


 品評会の賞金が百倍に跳ね上がったとか?

 ミツバチの幼体の単価が十倍になったとか?

 より優秀なミツバチを産むべく、ミツバチブリーダー協会が結成されたとか?

 野生のミツバチが根こそぎ捕獲されて絶滅の危機だとか?


 そんな話をリニー少年から聞かされたときは、思わず頭を抱え込んでしまった。


 コメを求めて決死の調査団とか結成されたら、いたたまれない。

 オニギリ探しに、異国とか、秘境まで行かなくていいからね?


 まだ産まれてもいない魔王調査でこの王国はずいぶんお疲れなのに、今度はオニギリを求めて異国の地にまで派遣される人がでてきたら大変だ。


 オレが原因で、これ以上みなさんに余計な仕事と負担は増やしたくないからね。


 オニギリがなくても、オレは生きていけるからね?

 そもそも魔素があるだけで、オレは生きていけるからね?


 そこのところ、リニー少年はちゃんと理解してくれているのかな? ちょっと心配だよ。


「リニー、米はまだ残っているのか?」


 今まで黙っていたフレドリックくんが、唐突に口を開いた。


「はい。あと、四、五回くらいは、同じメニューをご用意できると、シェフは言っていました」

「だったら、朝と昼も勇者様には米で粥を。夜は昼のご様子をみて判断しよう。わたしは、毒見だけでいい。朝は、夜と同じくらいの水の量で炊いて、昼は、少し水の量を減らし、米の量を多くして、もう少し、米の形状を残すように伝えてくれ」

「はい」

「残った米は、大事に保管しておいて、また勇者様の具合が悪くなったときに、食べていただくようにしよう」

「わかりました」


 具合が悪くなったとき用……って、だから、俺は食事をしなくてもだなぁ……。誰も理解してくれないのはなぜだ?


 フレドリックくんの指示に、リニー少年はなんの疑問も抱かずに素直に頷いている。


「それから……味付けは砂糖ではなく、塩……岩塩を少量使用すると、食欲がわく。卵をひとつ落としてもうまいだろう。卵は溶き卵がいいな」

「わかりました」


 なるほど……。


 筋肉のため、より美味な兵糧のために、日々よくわからない研究を重ねているラーカス家だ。

 目のつけどころがちがうな。


 フレドリックくんの指示に感心しながら、オレは夕食を完食したのであった。


 ごちそうさまでした。

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