第42章−2 異世界のハラミとバラは美味しくないです(2)

 血統と格式を重んじる高貴な方々にしてみれば、『平民』とは『どこの馬の骨か知れないヤツ』と同義だろう。同じ人として認識しているかどうかも怪しいくらいだよ。


 その『平民』が『異世界からやってきた魔王』にもあてはまる……というわけか。


 それって、「オレは異世界のモノだから」とか「同性だから」とかいう言い訳が、ドリアにできなくなるってことだよな。そういうわけか……。


 ……ん?


 それだけか?


「ちょっと待て? オレ、聖女様から……ええと、熱烈に求愛されたような気がするのだが?」

「みなの話をまとめると、されたようですね」


そんな……「されたようですね」って他人事みたいに投げやりな……実際には他人事なんだが……もうすこし「気の毒だなー」とか「大変そうですねー」とか、感情を込めて言ってほしいよ。


 頼むから、オレの現状に、もっと同情してくれよ!


「お、オレは……聖女様と……けっ、けっ…………ケッコンしないといけないのか?」

「今すぐに……というわけではありませんが」


 宰相サンの言葉に少しだけ安心する。


 ただ、「今すぐに」というなんか、フラグっぽいコトバは、都合よく聞こえなかったことにしてもよいだろうか? いいよね? 聞かなかったことにしても大丈夫だよね?


 恋愛も上手くできないのに、一時間も会っていないような男の子といきなりケッコンなんて、色々な意味でハードルが高すぎるよ。


 っていうか、三十六回、魔王として生きてきたが、オレは一度もケッコンしたことがないぞ。


 伴侶をどう扱っていいのかわからないぞ。


 しかも、異世界……。


 しかも、同性……。


「今まで、第一位の王太子殿下にすら興味を示さなかった聖女様が、ついに発情……いや、婚姻を望まれたとなれば、神殿側としたら、全力で聖女様の願いを成就させようと挑んでくるでしょう。新しい大神官長は、無害そうに見えますが、あれはあれでかなりのやり手です。手段を選びませんから、それ相応のお覚悟を」

「…………」


 な、なんだよ、宰相サン!

 怖いよ。

 どんな覚悟をしたらいいんだよ!

 その予言者っぽい言い方やめてくれないかな!


 宰相サンにそこまで言わせる、大神官長って、どんなにバリバリ仕事できちゃうヒトなんですか!


 震え上がったオレを、フレドリックくんが、ぎゅっと抱きしめてくれる。

 不思議なことにフレドリックくんの温かな息遣いに身を委ねると、恐怖が少し和らいだ。便利なフレドリックくんだ。


「大丈夫です。勇者様。勇者様のお心を煩わせる不埒者は、例え、聖女様であろうとも、王太子殿下であろうとも、大神官長であっても、ことごとく倒してみせます。勇者様がお望みであれば、存在していた事実すら抹消させてみましょう」


 ……便利じゃなかった、フレドリックくんもなにやらこじれちゃっているよ。


「…………フレドリックくん、すごく心強い言葉で、ありがたいけど、倒す……というよりかは、追い払ってくれるだけでいい……かな?」


 フレドリックくんを含めた『上位三名』とやらが本気になって戦うと、なんかとても大変なことになりそうで、ちょっと怖い。


 刺した、刺されたが、オレの眼前でリアルに起こりそうで、マジで恐ろしい。

 で、その原因が『オレをめぐっての痴情のもつれ』とかって、めちゃくちゃ嫌すぎるよ……。


 オレはいったい、なんのために異世界に召喚されたんだよ……。


 帰りたい。

 オレのおうちに帰りたい。

 切実に、帰りたいよ。


「優秀な子を確実に残したいと考える者は大勢おります。強者の本能といってもよいでしょう」


 宰相サンの発言が、なんか、高位魔族っぽいぞ。


「高貴な家に産まれた『ハラミバラ』は家門に護られますので問題ありませんが、後ろ盾のない平民の『ハラミバラ』は、同意なく強者に襲われたり、拉致されるということも珍しくありません」


(嘘! なに、その悲劇設定! いわゆる……手籠めにされるってわけか)


「なので、神殿側は一方的に狙われる『ハラミバラ』を保護する義務があります。また、女神の寵児が増えれば神殿の権威も高まりますので、『ハラミバラ』を強く欲しております」

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