第42章−3 異世界のハラミとバラは美味しくないです(3)

 さすが、出産と豊穣、婚儀と情欲の女神様が担当する世界だ。

 『ハラミバラ』大人気じゃないか……。


「え――っと、勇者様?」

「なんだ?」

「わたくしの説明、理解されておりますか?」

「しているつもりだけど?」


 オレの返答に「いや、あれは理解していないぞ」と、騎士団長サンが絶妙なタイミングでつっこんでくる。


「どこまで隠し通せるかはわかりませんが『ハラミバラ』の件は、我々の胸のうちにしまっておきましょう」


 あ、結局、宰相サンもそういう考えになっちゃったんだ。


 でもなんだろう、この……問題を先送りしているような、モヤっとした感じは……。


 月末までに処理しないといけなかった案件を、翌月に繰り越してしまったような……なんとも気持ちが悪くて背中がムズムズするよ。


「聖女様の方には、わたくしの方からもう一度、いえ、何度でも強く言い聞かせておきます」


 騎士団長サンの言葉に宰相サンは強く頷く。


「そして……勇者様、王太子殿下には、『ハラミバラ』の件は決して知られてはなりませんよ。あのバ……いえ、勇者様にメロメロ、骨抜きな王太子殿下が、勇者様が『ハラミバラ』であるとわかれば、豹変してなりふりかまわず一気に、婚姻にまでもっていかれるでしょうからね」

「わ……わかっている」

「本気になった王太子殿下の行動力をあなどってはなりませんよ?」


 そ、そうだよな。

 わ、わかっていますよ。

 ドリアが無茶苦茶なやつ……ってことは、十分に理解していますよ。


 『ハラミバラ』って、身分とか、立場とか、性別とか、そんなの全部ひっくるめて、チャラにできちゃうトンデモスキルだもんな……。ぼーっとしてたら、お嫁さんにされかねない。注意しないと。


「リニーにも黙っていてください」

「あ、うん……」


 そうだよな。秘密を知る者は少ない方がいいものな。

 でも、リニー少年に隠し通せるのか?

 相手は宰相サンの息子だよ?

 まだ幼いのに、すごく優秀な子だよね?

 ちょっと自信がないなぁ……。


 それよりも、リニー少年には事情を話して、協力してもらった方がいいんじゃないのかな?

 とも思ったが、とてもとても口にだせるような雰囲気ではなかった。


 騎士団長サンが「おまえ、それって、公私混同じゃあ……」とか言いかけて、宰相サンに睨まれている姿がちらりと見える。


「護衛を増やしたいところですが、増やすと、『なにかある』と周囲に知らせることになってしまって危険です。そもそも、『ハラミバラ』の魅力に対抗できる護衛はなかなかおりません」

「…………」


 それって、いわゆるミイラ取りがミイラになる……ってやつか?

 オレがぼーっとしてたら、自分の護衛に襲われちゃうってことか?


 面倒くさいぞ『ハラミバラ』って……。


「今まで通りでいきましょう。ただし、今後、やむなく部屋から出るときは、必ず『三人以上』でお願いします。フレドリックとリニーは絶対に伴うようにしてください。どちらか一方、ではなく、どちらもセットで、です」

「わかりました」


 ものすごく念をおされてしまった。軟禁生活がさらに息苦しいものになるのか、と、ちょっぴりうんざりする。


 ため息をついたら、宰相サンからは「本当にわかっているんですか?」というような疑いに満ちた目で睨まれてしまった。


 このときのオレはわかったつもりになっていた。


 宰相サンの心配を正しく理解していなかったことを、後でオレは猛烈に反省するのだが……。


 至高神アナスティミアが異世界召喚特典で与えたスキルが、これほどまでにやっかいで、扱いに困るスキルだとは、このときのオレは想像もしていなかった。


 くそ! あの肉食女神めっ!


 宰相サンの尋問が終わると、まだ話し合うことがあると言われた騎士団長サンを残し、オレとフレドリックくんは、執務室を後にした。


 時間にしたら、小一時間も話していないのだが、とても疲れてしまったよ。


 精神的に疲れただけなのだが、なにを勘違いしたのか、フレドリックくんはまたオレを横抱きに抱えると、オレが滞在している客室へと向かっていく。


 過保護の見本みたいな存在だね。

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