第41章−3 異世界の尋問は楽勝です(3)
「その……勇者様には、大変なご迷惑をおかけいたしました。我々のミスでございます。魔王が誕生するにはまだ時間があるようですが、その間、勇者様には国賓として、なに不自由ない暮らしを保証いたします」
(まだ時間があるって、軽く言っちゃってるけど、五十年だよ? このズレはでかいよ? ニンゲンなら、オギャーって産まれてから、孫がオギャーって産まれるくらいの歳月だよ?)
「いや、そんな保証よりも、オレが帰れる方法を見つける努力をして欲しいのだが?」
「そんなことをおっしゃらずに、ごゆるりと滞在してください」
(いや、そんな長期間の監禁生活なんてヤダ!)
「いや、オレは元の世界に……」
「そうおっしゃらずに、ごゆるりと」
宰相サンがとってもステキな笑顔を浮かべる。
ちょ――こわい。
「わ、わかりました……。お言葉には甘えさせていただきます。しばらくの間の期間限定となりますが、お世話になります」
(なんで頷いちゃうんだオレ! しかも、ご丁寧に頭まで下げてどうするんだよ!)
宰相サンの気迫に負けてしまい、オレは王国に滞在することを快諾してしまったのである……。
オレたちの話し合いはまだまだ続くよ。
そろそろ紅茶のおかわりが欲しくなって、空になったカップをオレたちはチラチラと気にしはじめるのだが、宰相サンはベルを手に取ることはしなかった。
だれも紅茶のおかわりを言いださない。
いや、できなかった。
優雅にお茶を飲むような雰囲気ではなかったからだ。
というわけで、飲み物なしでの続行だ。
「それと、聖女様の暴走に関してですが……」
と、宰相サンが口を開けば、騎士団長サンとフレドリックくんがオレに向かって深々と頭を下げた。
「聖女……いえ、愚息の無礼、どうか、お許しください」
「お許しください」
この親子が頭を下げるのは何度目だ?
聖女様にオレが襲われかけたこと。
聖女様がオレに魅惑魔法をかけたこと。
魅惑魔法の抵抗にオレが失敗して、フレドリックくんの助けを借りたこと。
騎士団長サンが、聖女様の再教育をこれからも継続して行うこと……。
それらのコトをオレたちは仲良く順番にペラペラと白状してしまった。
誰が悪いとか、口が軽いとかそういう問題ではない。
宰相サンが恐ろしく優秀なのだ。
うん、やっぱり、クッキーに宰相家秘伝の自白剤が入っているんじゃないかな。
「聖女様の暴走は、わたくしからも謝罪いたします。日を改めて、謝罪の場を設けさせます。また、聖女様へはもちろんのこと、大神官長にもしっかりと抗議しておきますので」
宰相サンが殺気のこもった暗い顔で宣言する。
うわぁ、大神官長も就任早々、大変なことに巻き込まれそうだな……。
大神殿を退出するときに、新しい大神官長と軽く挨拶したが、三十代くらいの、色白でヒョロっとした気の弱そうな……争い事を嫌うような穏やかな気質の男性だった。
あの肉食女神を奉じる組織のトップだから、もっとこう……ギラギラした脂ぎったヤツなのかと想像してたけど、実際は違っていた。
う――ん? こういうのって、勇者たちがいた世界でなんか単語があったよな?
癒し系?
癒やされたい系?
なんか、そんな系統に分類される。
あれは、きっと、聖女様で苦労する、苦労させられるタイプだね。
「いや。あまり大事にはしたくないから、公式での謝罪は不要だ。むしろ、迷惑だ。公式、非公式両方、可能な限り神殿関係者と会うことは控えたい。聖女様への牽制はしっかり頼むよ……」
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