第41章−2 異世界の尋問は楽勝です(2)
「しかし……『ここ五十年のうちに、魔王が誕生する』という女神様のお告げが、どうして、『五年前に魔王が誕生した』にすり替わってしまったのだ?」
騎士団長サンのもっともな質問に、宰相サンは首をひねる。
「女神様は、聖女様が大神官長に『五十年のうちに、魔王が誕生する』と宣言したのを見届けた、とおっしゃっていたのですね?」
「うん。そう聞いたぞ」
「だとしたら、まだ誕生もしていない魔王の調査を、部下に命じていたことになるな……。何回も調査隊を派遣しても、空振りに終わるはずだ」
騎士団長さんの疲れ切った声がなんともせつない。
予算と人材の無駄使い。ご愁傷様です。
「しかも、本来なら失敗の連続となる勇者召喚を、一度目で成功させてしまうなど……」
オレを除く全員が頭を抱え込む。
「本格的な調査の必要がありますが、おそらく……大神官長が神託の内容を神官に伝えたときに、情報がすり替わってしまったのでしょう」
「それしかないな。大神官長ならありえる」
「わたしもそう思います」
そうだよな……。
オレもその推理に賛成票を投じよう。
お亡くなりになった当時の大神官長はかなりのご高齢――王国での最長老――だったらしいから、耳が遠かったり、記憶力に問題があったりしたんだろうね。
「だとしても、その後に、魔王は本当に誕生しているのか、何度も問い合わせたのだろう? 問い合わせてくれって申請したよなぁ?」
「ああ。調査隊がいくらがんばっても魔王を見つけられないと、何度も何度も何度も何度も、しつこいくらいに何度も言われたから、神殿に『あの神託には間違いはないのか』と、問い合わせるようにっ……あっ」
宰相サンが「しまった」という表情を浮かべる。
神託は女神から聖女様。
聖女様から大神官長に伝えられる。
いずれもそのときは、一対一だ。
そして、大神官長が神官に伝えた言葉が『神託の内容』になる。
その時点で間違っているのに、
「神託の内容に間違いがないか?」
と神殿に尋ねても、神殿側は
「間違いはない」
と答えるだろう。
神殿側は大神官長の言葉を正確に記録し、その言葉をそのまま伝えたのだ。
間違った内容であるはずがない。
まあ、そもそも、女神の神託を疑うこと自体、神殿側にしてみれば、腹だたしいことだろう。
聖女さまのところまで確認がいくとは考えられない。
「神殿を通さずに、聖女様に直接、尋ねたらよかったのだな……コネはあったのに」
宰相サンが、がっくりと肩を落とす。
そうだよね、聖女様って騎士団長サンの息子だもんね……。
「女神の神託を聖女様は偽ることはできない。だが、聖女様の言葉を大神官長が聞き間違えることはある……ということだな。しかし、よく、今まで、それで問題が起きなかったものだ」
「それこそ女神様の奇跡だな。……二度とこのようなことが起こらないよう、神殿には抗議と提案をしよう」
騎士団長サンと宰相サンの会話が聞こえたが、大丈夫なのか、この世界は……。
大神官長が俗物で私欲にはしるようなヒトだったら、国家転覆もありうるぞ。大神官長が国主として、宗教国家になることも可能だ。
異世界って、怖いくらいおめでたい世界だな。
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