第40章−5 異世界の宰相サンは容赦なしです(5)
というわけで、宰相サンとのドキドキ面談は、宰相サンの執務室で行われることになったよ。
案内された部屋に入ると、こちらの執務室はドリアの執務室と違って整然と片付けられており、左右の書棚には製本された書類がぎっしりと詰まっている。
部屋の奥には、王太子の執務机よりもさらに大きな執務机があり、部屋の中央には、合計八名が座ることができる立派な応接セットがででんと鎮座していた。
その応接セットの長椅子に、ものすごく不機嫌そうな顔をした騎士団長サンが行儀悪く座っている。
オレを抱っこしているフレドリックくんの姿を見ると、さらに、騎士団長サンの顔が険しくなった。ちょっと怖い。
「フレドリック……勇者様を抱いたまま城内を歩いたのか?」
なにをやっているのか、この馬鹿者が! っていう、騎士団長サンの声が聞こえたような気がしたよ。
「勇者様はお疲れです。王太子殿下との面会で、歩くことはもちろん、立っているのもお辛いくらいに、弱ってしまわれたので……」
(うん? 大筋は間違ってはいないけど……なんかひっかかる言われ方だな)
「フレドリック……もう少し、自分の立場というものをだなあ……」
「フレディア騎士団長、よいではありませんか。若者たちの青臭い恋の行方を生暖かく見守るのも、年配者の務めです。わたくしはむしろ、王太子殿下へのいい刺激になって、よいと思っております」
「はっ。刺激程度で済めばよいのだがな」
宰相サンのとどめのような一言に、騎士団長サンの不機嫌度ゲージがさらに高くなっていく。
「父上、どうして、こちらに戻って来られたのですか? 直帰すると伺っていたのですが?」
「仕方がないだろう? 今日中に決裁しないといけない案件がたくさん残っている、来年度の騎士団に配分される予算にもかかわることだ、と連絡があれば、急いで戻るしかないだろう!」
「で、ノコノコ城に戻って、あっさりと宰相閣下に捕まってしまったと? 宰相閣下の罠だと思わなかったのですか? 今の時期に、来年度の予算にかかわる案件があるとお思いで? 父上は一体、何年騎士団長をお勤めになったのですか? まだ年間の仕事を把握していないのですか? 学習能力って、言葉をご存知ですか? 父上には学習能力がないのですか?」
「……うううっ。でも、まだ、なにひとつ今日のことはしゃべってないぞ!」
「…………」
流石、親子だ。
今日、確実になにかがあった、ということを宰相サンにバラしてどうするんだよ……。
フレドリックくんは口を閉じ、そっとオレを長椅子の上に下ろしてくれた。
「それでは、わたしは外でお待ちしておりますので」
「いえ。フレドリック様も同席してください」
もうひとりの近衛騎士と部屋を出ようとしたフレドリックくんを、宰相サンがひきとめる。
『様』づけで呼ばれたフレドリックくんの肩が、怯えたようにびくりと跳ね上がった。
「え? いえ……それは……」
さっさと退出してしまった同僚を羨ましそうな目で追いかけながら、フレドリックくんはとまどいを隠せない。
お父さんと同じように、ものすごく嫌そうな表情を浮かべていた。
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