第40章−3 異世界の宰相サンは容赦なしです(3)

 あの書類の山を見ていると、思わず「手伝ってやろうか」と言いたくなってしまうけど、他国、しかも異世界の『まつりごと』に、異世界の魔王が介入するのはよくないだろう。


 口出しはできないけど、書類整理くらいならできるんじゃないだろうか。


 そんなことをちらりと考えたりもしたけど、宰相サンに促されて、オレはフレドリックくんに抱っこされたまま、王太子の執務室を後にしたのであった。


「勇者様、今、少しくらいなら王太子殿下を手伝ってもいいかな……って思っていらっしゃいましたね?」

「え、えええっ! ど、どうしてわかった!」


 フレドリックくんの指摘に、オレは激しく動揺する。


 怖いよ……。


 そういうなんでもお見通しってところが怖いよ、フレドリックくん。


「そのようなお顔をなさっておられました」


 微かに笑みを浮かべながら、フレドリックくんは、腕の中のオレへと視線を落とす。


(ふ、ふ、フレドリックくんが笑った――!)


 しかも至近距離のどアップ。

 オレの全身に甘い衝撃が駆け巡り、顔が一気に熱くなる。


 先を歩いていた宰相サンは歩みを止めると、くるりと首を巡らし、オレを……というか、オレを抱っこしているフレドリックくんへと視線を向ける。


 ちなみに、宰相サンといっしょにゾロゾロといた文官たちは、まだ王太子の執務室で書類の運び込みと、散乱した書類の整理を行っているからね。


 近衛騎士は宰相さんの護衛のようで、一定の距離を保ちながらオレたちの後ろをついてきている。


 きっと、あの文官さんたちは、王太子殿下の見張りも兼ねた生贄……応援要員だろうね。

 書類が片付くまで帰宅を許されていないんだろうな……。


「騎士団長もさきほど帰還された。なんだか、様子がおかしいと思ったが、そういうことなのだな?」


 宰相サンは、キッツイ目でフレドリックくんを睨んでいる。


 綺麗な顔に殺気めいた凄みが加わって、なんか、オレ以上に魔王っぽいというか、ラスボス感あふれる宰相サンだ。


「父がなにか?」


 少しだけ、フレドリックくんの声が固くなり、オレを抱きしめる力が強くなる。


「なにも。いつもどおりだ。……いつもどおりすぎるから、おかしいのだ。聖女様が勇者様と一週間も同じ空間で過ごされて、なにもなかったなどありえない」

「…………」


 宰相サンの断言にオレとフレドリックくんは言葉を失う。

 酷い言われようだが、当たっているから始末が悪いね。


 この世界の聖女様の評価って、どんなのなんだよ……。


「ラーカス家の者が、不慣れな腹芸などするものではない。そういうコトは、ラグナークス家に任せておけばよいものを……」

「……ラーカス家は、日々、王国の安寧を求め願っております……」


 フレドリックくんから目を逸らすと、宰相サンは大仰に溜息をついてみせる。めちゃくちゃ疲れていらっしゃるみたいだ。




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