第40章−2 異世界の宰相サンは容赦なしです(2)

 と、ぞろぞろと……山のような書類を抱えた文官たちが、続々と執務室へと入ってくる。


「え……?」

「とりあえず、部屋のすみから……。床の上に落ちている書類は脇によけて……。そうそう、こちらから、あちらに向かって、順番に並べて置いていってくれ」

「宰相閣下、このような感じでよろしいでしょうか?」

「そうだな。念のため、書類が崩れないように、紐で縛っておこうか」

「わかりました」

「優先順位の番号もつけておいてくれ」

「わかりました」


(な、なにがはじまったんだ……)


 オレはフレドリックくんに抱っこされながら、室内にどんどん増えていく書類の山をぼんやりと眺めていた。


 この量は……なんともすさまじい。

 年度末の繁忙期並の書類量だ。いや、それ以上だ。


「え……なんだ、これは?」


 ドリアはフルフルと震えながら、十数名の文官たちの手によって、整然と並べられた書類の束もとい、塊を指し示す。


「王太子殿下が、今まで溜めに溜めまくっている書類でございます。まだ、別室に、これと同じ固まりが三つございます」

「宰相閣下、四つでございます」


 いかにも優秀が服をきているような文官が、すかさず訂正する。


「…………」

「おや? そうだったかな……? わたくしの気づかぬ間にも、書類はどんどん溜まっているようですな――」

「いや、でも、なに、この量は……いくらなんでも……」

「勇者様がお戻りになって、王太子殿下がようやく、やる気になってくださったのだ。勇者様の残り香が室内から消え去らぬうちに、残りの書類も急いで運び入れてくれ」

「はっ。ただちに!」


 宰相たちの言葉に、ドリアの顔色がどんどん悪くなっていくよ。


(おいおい、どんだけ溜めこんでるんだ!)


「……というわけでございまして、こちらの書類を全部片付けてから、王太子殿下は勇者様との面会をご希望でございます」

「いや、違う ! 宰相! わたしは、今晩マオと……」

「この溜まった書類が片付かない限り、勇者様との夜は、絶対にありえません!」

「ひいぃ……」

「勇者もよろしいですか?」


 ぐい、と宰相サンがオレに迫ってくるよ。

 あ、これは……定番となりあつつある「王太子殿下がんばってね」コールを期待されているみたいだね?


「ああ……わかった。ドリア、がんばれ。オレはいつまでも待っているからな。だから、仕事をきっちりと片付けてから、ゆっくり会おう。ドリアとの夜を楽しみにしているぞ」

「ま、マオ――っ」


 オレの言葉に感激したのか、書類の山に絶望しているのか、再びドリアの瞳から涙がだばだばと流れ落ちてきたよ。



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