第40章−1 異世界の宰相サンは容赦なしです(1)

 ずずっと迫る宰相さんの気迫に圧倒されたのか、ドリアは引きつった笑みを浮かべながら、二歩、三歩と後退していく。


「王太子殿下?」

「あ、その……。マオと久々にやろうかと……」


(おい、もうちょっと上品な言い方はないのかよ!)


「お盛んなのは大いにけっこうですが……」


(ちょ、ちょっと、宰相サン……。そんな下々が使うような言葉を使っちゃダメだよ。しかも、なにがけっこうなんだ!)


「じゃあ、今夜は」


 ドリアの顔が期待でぱっと輝く。


 いや、そんなに露骨に嬉しそうにされてもだな……。


「今まで溜めに溜めまくっている書類を片付け終われば、勇者様とのご面会をとりはかるようにいたします」

「いつからわたしは、マオに会うために宰相の許可が必要になったのだ!」

「最初から必要でしたが? 勇者様は王国が招いた国賓です。国賓の接待総責任は宰相にございます。ご存知ありませんでしたか?」

「今、知った……」


 室内にいる全員が同時に溜息をついたよ。

 ちっちゃい溜息でも、数が多いと、けっこう響き渡るもんだね……。


「じゃあ、今まで、さんざん、近衛騎士たちにマオとの面会を邪魔されてたのは?」

「勇者様との王太子殿下の面会予定がなかったからです」

「え…………?」

「王族の知識として、基礎中の基礎でございます」

「わたしは知らない…………」

「講義中、寝てらしたのでは?」

「…………」


 返事がないということは、思い当たるフシがありすぎるのだろう。


 うん、なんとなく、わかるなぁ。


 真面目に勉強しているドリアよりも、ぐうぐう寝ているドリアの姿の方が、しっくりくるよね。


「王太子教育を受けた方なら、知っていて当然のことなのですが?」


 宰相サンは涼しい顔でフレドリックくんの方へと視線を向ける。


「学びました……」


 フレドリックくんが嫌そうな顔でしぶしぶ答える。

 自分が元王太子だったことには触れられたくないようだ。

 オレを討伐した歴代勇者がよく呟いている黒歴史というものだろうか?


「勇者様とのご面会の件につきましては……王太子殿下が、今まで溜めに溜めまくっている書類を片付け終われば、とりはかるようにいたします」

「わかった!」


 ドリアの返事に宰相サンは「わかっていただければそれでよいのです」と満足そうに頷いているよ。


(ドリア、そんなに簡単に返事しちゃった大丈夫なのかな……)


 相手はあの宰相サンだよ?


「では……」


 と言って、宰相サンは、パンパンと手を叩いた。



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