第39章−2 異世界のハグは命がけです(2)

「あ――!」


 書類の山から、キラキラドリアの顔がひょっこりと姿を現す。

 高く積み上げられた書類のせいで、目から上だけしか見えない。


「マオ! マオだ!」


 とっても嬉しそうな声と笑顔。

 元気そうでなによりだ。


「…………!」


 ドリアに会うのは久しぶりだからだろうか。その声を聞いたとたん、オレの背筋に甘いうずきが走る……?

 いや、待て!

 こ、こ、この熱とうずきは……。


(な、なんなんだぁっ――!)


 聖女様の魅惑魔法の効果は、フレドリックくんと散々やって切れたはずだ。

 なのに、まだ……。

 いや、また?


 至高神アナスティミアの不要ギフトが絶好調すぎる。

 不良品と言ってもいいだろう。

 これじゃあ、ただの発情しまくりの変態になってしまうじゃないか。

 なんとなくわかっていたことだが、加減というものをあの肉食女神は知らないようだ。


 オレの内心の動揺をドリアがわかるわけもなく、ドリアは軽やかに机の上に立ち上がった。


「え、え、え?」

「お、王太子殿下!」

「お、待ちください」


 ドリアの王太子らしからぬ突然の行動に、部屋にいた書記官らしき人々が驚き慌てる。


「マオ――っ!」


 ドリアは少しの躊躇もなく、机の上から勢いをつけて飛び降りると、入り口で呆然としているオレめがけて、猛烈スピードで突っ込んできた。


 執務机を迂回してではなく、最短距離をドリアは選択した。


 床に落ちている書類も躊躇なく踏んでいく。


「マオ! 無事だったか――!」


 当然のことながら、この不意打ち突進に、机の上に並べられていた書類の山が「ザザーっ」と音をたてて雪崩のように崩れ落ち、床の上に散乱する。


「ああっ! 整理した、しょ、しょるいがあああっ!」

「また、最初からやり直しだ!」

「ぐちゃぐちゃだ――」


 頭を抱え込む者、がっくりと床に膝をつく者、悶絶する者と……王太子の執務室が騒然となる。


 が、この騒ぎの元凶は、全く意に介さず、オレめがけて一直線。

 素直すぎるくらいにまっしぐらだよ。


「ど、ドリア!」


 なんてことをやらかしちゃったんだ。

 今すぐ振り返って、あの書記官さんたちの悲痛な顔を見なさい!


「マオ! 会いたかった!」


 両手をめいいっぱい広げて、ドリアは勢いをつけたままオレに抱きついてきたよ。

 

 ちょ、ちょっと待て!


 加速じゃないよ!


 減速しろよ!


「ぐはあっ!」


 ドラゴンに体当たりされたかのような、信じがたい衝撃がオレに加わった。


 ドリアがオレに抱きついてきたのだが、これは衝撃といった生易しいものではなく、もう立派な攻撃だった。


 今ので間違いなく、オレのヒットポイントが半分くらい削られた……。


 ちょっと……この世界のヒトたち、おかしすぎるぞ。

 異常なほど強すぎないか?



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