第39章−1 異世界のハグは命がけです(1)

 城内の長い廊下を、オレはフレドリックくんとふたりで歩いていく。


 しばらくすると、どこからか現れたのか、近衛騎士のひとりがフレドリックくんに近寄ってきて、なにやらヒソヒソ、コソコソと耳打ちする。


 ふたりは小声でひとこと、ふたこと言葉を交わすと、近衛騎士は軽くオレに頭を下げてから、別の方向へと立ち去っていった。


「勇者様、王太子殿下は執務室にいらっしゃるそうです」

「へえ……」


 意外だったよ。

 あのドリアが執務室で仕事をしているのか?

 オレはてっきり、サボって行方不明になっているのかと思っていたのだが……。


 さっきの騎士は、フレドリックくんにドリアの居場所を伝えにきたんだね。


 オレはフレドリックくんのエスコートに従って、廊下を何度か曲がり、階段を登り……。

 行き着いた先は、城の中央から少しだけ奥まった場所にあるとある部屋の前。


 文官たちの密度が高く、なにやら賑わっているのは、ここが実際の政務がおこなわれているエリアで、各省や宰相、王族の執務室が集中しているからだろう。


 召喚当初は立入禁止エリアとして案内されたところだ。

 よって、実際に訪問するのは初めての場所だ。


 オレの城よりも豪華で、重厚感がある内装になっているよ。

 ……今後の参考にさせてもらおうか。


 あちこちの部屋の入り口では警護の兵士が、門番よろしく立っており、廊下を行き交う人々に鋭い視線を向けている。


 オレが案内された部屋は、ひときわ立派で荘厳な意匠の扉になっており、防御系と機密保持に関連する結界魔法が施されていた。

 頑丈な扉の両隣には、警護の兵士ではなく、近衛騎士が直立不動で立っている。


 あきらかに、他の部屋とは違う扱いだね。部屋の主が誰なのか、ものすごくわかりやすいよ。


 東門にいた近衛騎士たちと同じく、彼らからも「よっ! 救世主!」みたいなキラキラ目線を向けられる。


 近衛騎士が重い扉が開き、中に入ると……。


 まず、視界に入ってきたのは、豪奢な執務机の上に高く積み上がった書類の山。


 床に散乱している書類。


 応接机と椅子の上にも書類が散乱している。


 書類。


 書類。


 書類。


 書類の大洪水だ。


「な、なんだ……ここは……?」

「王太子殿下の執務室でございます」


 いや、フレドリックくん、それは部屋に入ったときに、すぐにわかったよ?

 いやいや、入る前からなんとなくそんな気がしていたよ?


 ここからだと目視はできないけど、ドリアの気配はするからね。


 そんなことはわかってるんだよ。


 それよりも、なんなんだよこの書類の量……。




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