第37章−1 異世界の脳内会議はグダグダです(1)
今、オレはガタガタと不規則に揺れる馬車の中にいた。
馬車は迷うことなく、ドリアが待つ王城へと一直線に向かっている。
「それでは、帰りましょうか」
と……すべてが終わった後で、フレドリックくんに言われ、オレは反射的に頷いてしまった。
今のオレが帰る場所は、やっぱり『そこ』になるんだなと、ひっかかりつつも、その言葉を強く拒むことができない。
オレを迎えにきた馬車は、王国の客人を乗せるための馬車らしく、乗り心地は悪くなかったよ。
というか、乗り心地は驚くほどとてもよいね。
儀礼用の豪華絢爛で、意匠に凝った仰々しい馬車ではなく、実用性重視の、外装も内装も地味で控えめなデザインとなっている。
ぱっと見は普通の金持ちが利用するような平凡な馬車だったよ。
悪目立ちせずに、周囲に馴染むのが大前提。視察やお忍びでの移動に使われる馬車らしいね。
見た目は地味だけど、素材はよいものが使用されているんだ。
だから、座席の座り心地も最高によい。
要人も利用する馬車とあって、防御系の魔法もばっちりほどこされているよ。
なので、本来は快適な空間であるはずなんだけど、馬車の中はとても静かで、気まずい空気に沈んでいた。
目の前には近衛騎士の制服をきっちりと身につけたフレドリックくんが行儀よく座っているよ。
フレドリックくんの顔は……相変わらず無表情に近かったけど、すこしばかり機嫌が悪いのがオレにはわかる。
(まずった。失敗した。しくじった……)
表面上は平気な風を装いながら、オレの脳内は反省会議の真っ最中だった。
いろんなオレが脳内で議論している合間に、目の前に座っているフレドリックくんをチラチラ見ては、どんよりと落ち込んでしまう。
あの後……。
ひととおりの行為をつつがなく終えたオレたちは、隣室にある聖女様の浴場をコッソリ拝借して、身を清めた。
いやあ、出産と豊穣、婚儀と情欲の女神様を祀る大神殿の浴場とあって、なかなかに立派だった。
その無駄に立派すぎる浴場にオレは気後れしてしまったのだが、フレドリックくんはアッパレなくらいに大人だった。
なにごともなかったような涼し気な顔で、ささっと己の身を整えると、身動きできないオレの身体をその十倍くらいの時間をかけて丁寧に洗ってくれて、事後の後始末も手際よくやってくれた。
あらかじめ用意していたという、オレの『帰りの着替え』を着る手伝いもしてくれた。
かいがいしくオレの世話をしてくれるのは喜ばしいことなのだが、表情にも態度にも、フレドリックくんはさっきまでの行為の余韻をおくびにもださない。
いつまでも甘々べったりで、隙あらばここでももう一回やってしまおうとするドリアとは全く違うよ。
事務的というか、気持ちの切り替えがなんとも素早すぎる……。余韻どころか、驚くひますらなかった。
もちろん、フレドリックくんの真意はオレにはわからないけど『これも護衛騎士の任務のひとつ』という鉄壁の姿勢で、オレに接してくる。
オレだけが一喜一憂し、ひとりで勝手にドギマギしている……という、いつものモードに戻ってしまったのである。
さっきまでのアレも……あの、官能的で夢のような大人の時間も、フレドリックくんの中では『愚弟がやらかした不始末を、兄がしかたなく片付けました』程度のことなんだろう。
そうだろうね。
なかったことにしたいんだろうね。
いやまあ、なかったことにする前提で、騎士団長サンはフレドリックくんとオレをあの部屋に残した。
だからこそ、フレドリックくんはオレの願いを受け入れてくれたんだろう。
それはわかっている。
わかっている……つもりだったよ。
でも、だなぁ……。
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