第30章−5 異世界の一番はたくさんあります(5)

 ドリアは子ども相手に、適当に勝ったり、負けたりしながら、剣の基礎を教えている。


「にーちゃん、すごい!」

「やっぱ、にーちゃんって強いな!」


 子どもたちが口々に褒めている。


「そうだろう。そうだろう。わたしは、とても強いのだぞ!」

「どれくらい強いの――?」

「そうだな――。父上の次くらいに強いかな――?」

「な――んだ、にいちゃんも、やっぱり、オヤジには頭があがらないのか!」


 ケラケラと子どもたちは笑う。


「まあな。父上は、この国でいちばん、強いヒトだからな!」

「え――? それじゃあ、にいちゃんは、にばんめに、強いヒトってコト?」

「えっえっっ。ま、まあぁ、そうなる……ように、がんばっては……いる? かな……?」


 目が泳いでいる。

 騎士団長とか、エリーさんとかの顔を思い出しているのだろう。


 なんか、情けない返事だが、テンション高めな子どもたちには、聞こえていないようである。


 ドリアが木剣をリーダー格の子どもに返し、懐から飴玉をとりだした。

 子どもたちは、今日、いちばんの歓声をあげて、ドリアのまわりにまとわりつく。


「ドリアって……子どもが好きなのかな?」

「そうですね。ご兄弟はいらっしゃいませんので、そういう願望は強いようですよ。愛するひとを娶り、子どもはたくさん、を望んでいらっしゃいます」

「…………」


 フレドリックくんは淡々とオレの質問に答えていたが、オレの方はなんだか、ちょっと落ち着かない気分になってしまった。

 自分でも自意識過剰だとは思うが……。


 オレの疲労――胃もたれともいう――が回復したので、ドリアは子どもたちから惜しまれつつ、チャンバラ教室を終了する。


「ドリア様、時間も押してまいりました。そろそろ、マオ様がお望みの大神殿へと参りませんか?」


 エリーさんの提案に、


「え――っ」


 といいながら、ドリアはふくれっ面をする。

 頬が昼に食べた肉まんのようにぷっくり膨れ上がっているよ。

 さっきまで子どもと遊んでいたせいか、妙にドリアの反応が子どもっぽいなぁ。

 

「いやだ。時間はとらせないから、すぐに終わるから! あと、一箇所だけ、いきたい場所があるんだ!」

「ドリア様、マオ様もお疲れです。また、次の機会があるではありませんか……」


(いや、エリーさん、大神殿に行くことを忘れないでいてくれるのはありがたいのだが。そう簡単に、オレの意見も聞かずに、次の機会をホイホイとセッティングされるのも、困るのだが……)


「いやだ!」

「ドリア様、外出の本来の目的は、マオ様が大神殿のご訪問を希望されたからです。それにドリア様がご同行されたのです。これ以上、ドリア様のわがままを通すわけにはまいりません」

「わがままなんかじゃない! デートコースとしてちゃんと、計画していたんだ! 申請もした!」

「…………」


 申請のチェック体制、精査が甘かったのだろうが……これはもう、駄々っ子モードになってしまっているよ。



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