第30章−4 異世界の一番はたくさんあります(4)

 もちろん、その一品、一品には、ドリアの解説と「わたしのいちばんのお気に入りなんだ!」という言葉がついていたよ。


 それにしても、みんなの食欲がすごかったよ。

 あれだけの量を食べても、平気な顔をしているんだ。


 オレはもう限界だったよ。

 もう、胃になにも入らない……。

 初めて、満腹感というものを体験したといってもいいね。


 休憩所にもなっている市場の真ん中の大噴水のベンチに座って、オレは食べたものが消化されるのを待つ。


「マオ様……大丈夫ですか?」


 心配したフレドリックくんが、屋台で売られていた氷水を差し出してくれた。


 オレは軽く礼をいいながら、冷たい水を飲み干す。

 市場の食べ物は、全体的に辛くて濃い味付けだったので、喉が非常に渇いていたんだ。

 フルーツジュースはさっき飲んだけど、甘くて余計に喉がかわくことになってしまった。そこでの氷水はありがたいね。


 あいかわらず、フレドリックくんの気づきには脱帽するね。

 こんなにあちこちに気を使っていたら疲れないだろうか、と心配になるくらいだよ。


 一方、ドリアはというと……。

 なんと、市場にいた子どもたちと、広場でチャンバラを始めていた。


 っていうか、あのオモチャの木剣はどこからでてきたのかな?


 当然のような顔をして、子どもたちが木剣をドリアに差し出してたよね。


 ……っていうか、ドリア……市場の子どもたちと面識があるよな。

 しかも、子どもたちの様子を見るに、けっこうな人気者のようだよ。


 オレだけではなく、エリーさんやフレドリックくんまでが、この展開に呆れ返っていた。


「マオ様をほっぽりだして、ナニをされてるんでようかね!」


 エリーさんはプリプリ怒っている。


 いや、まあ……オレは別になんとも思っていないから、そんな理由で怒ってくれなくてもいいんだけどね。


 むしろ、押しの強いドリアから開放されて、オレは助かっているくらいだよ。ちょうどよい休憩時間だね。


 パワフルなドリアの相手は、ちびっ子たちに任せようか。

 インドア派のオレには少々、荷が重すぎるよ。


 フレドリックくんが疲れたような声で、隣に立つエリーさんに語りかける。


「時々、どんなに城内をお探しても、お姿が見つからないときがあったのですが……城外にまでおでかけになられていたのですね……」

「まさか、城外にまで行動範囲を広げていたとは! 帰ったら、監視体制の見直しと、訓練強化……それから人事を再検討しないと……」


 めちゃくちゃ怖い形相で、エリーさんがブツブツ呟いている。

 怖い……。

 めちゃくちゃ怖い。


 オレはフレドリックくんがすすっと、エリーさんから距離をとったのを見逃さなかった。


 平和ボケしているのか、ちょっと、この国の近衛騎士はザルだな……って思ってたけど、本当にザルだったようである。


 今回のことで、ザルの目が少しばかり細かくなりそうではあるが。



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