第30章−3 異世界の一番はたくさんあります(3)★
ようやく、通常営業ができるぜ、と嬉しそうに語る店主に、オレは心の中で頭をさげた。
こんなところにまで、あの『落雷騒ぎ』の影響がでているとは……。
魔法を使ったことは後悔していないけど、もう少し加減するべきだったと、反省したよ。
「それは……大変だったんだな。その姿焼きを四本もらえるか? このまま食べ歩くから、包む必要はないよ」
「あいよ。お連れサンのぶんだね? って、なんと……まあ……えらいベッピンさんを連れ歩いてるじゃないか!」
「まあな! ダブルデート中なんだ!」
「ほう!」
ドリアは店主のサービストークにご機嫌で、めちゃくちゃ嬉しそうにふんぞり返っている。
(こんな調子で大丈夫なんだろうか……)
素直すぎるドリアに、オレはちょっぴり心配になってしまった。
「そんなこときいちゃあ、オマケしないとな」
ニヤニヤ笑う店主の手元を、エリーさんとフレドリックくんは親の仇でも見るような目で凝視しているよ。
少しでも変なことをしようものなら、斬りかからんばかりの勢いだ。怖い。
そんなふたりの緊迫した空気には気づかず、ドリアは店主と和やかに会話をしているのは、ある意味すごいね。
ドリアは慣れたやりとりで会計を済ませ、四人分の鳥の姿焼きと、オマケという、鳥のゆで卵焼きを受け取った。
「ドリア様……これは困ります」
警護ができなくなると、エリーさんとフレドリックくんは串焼きを受け取るのを嫌がったけど、ドリアの「ダブルデートだろ」という言葉に押し切られて、四人は歩きながら串焼きを食べることとなった。
もちろん、まずは、フレドリックくんがひとくちずつ口にして、エリーさん、ドリア、オレと順番に食べていく。
「あら。アツアツでオイシイですわね」
エリーさんの口から感想がもれる。険しかった表情が少し和らいでいる。さすが、食べ物の力は偉大だ。
フレドリックくんも無言で頷いているよ。
護衛任務中のふたりはアツアツの串焼きを急いで食べていたが、オレとドリアはのんびりと他の店舗を眺めながら食べ歩きを楽しんだ。
「マオ、どうだ?」
「うん。美味しいな。パリッと香ばしくて、ジューシーだ」
「そうだろ? 鳥の姿焼きは、あそこの店が一番、美味しいんだ。わたしのいちばんのお気に入りなんだ!」
「そうなんだ……」
ドリアはとても嬉しそうだったよ。
鳥の姿焼きのなかでは、さっきの店がいちばんのお気に入りなんだな……と、オレはひとり納得した。
串焼きを食べ終わると、次は、揚げパン。野菜の串焼き、蒸かし芋、野菜サンド、炒めたナッツ類、コロッケ、肉の煮込み……と、食べて、食べて、食べまくったよ。
どこの店でも、ドリアは顔なじみのようで、デート中だと告白すると、驚いたことに注文以上のオマケがついてきたんだよ。
さらに、団子やまんじゅう、焼き菓子や、果物のジュースと……デザートまでのフルコースを、オレたちは市場を見学しながら堪能すことになった。
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――物語の小物――
『鳥の姿焼き』
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023212372101714
お読みいただきありがとうございます。
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