第30章−2 異世界の一番はたくさんあります(2)

 抵抗しても無駄――ということを、すでにしっかりと学習しているオレは、素直にドリアについていく。

 その後ろを、ぴたりとエリーさんとフレドリックくんがついてくる。


 護衛は完璧。

 ただの下級貴族四人が、浮かれて街に買い物にでているようにしかみえないね。

 うん。完璧だ。


「今日は、十日に一度の大市の日だから、いつもよりも店も多いし、人も多いし、とても賑わっているぞ! この日にしか出店しない、外国の店もたくさんあるんだ!」


 ドリアは嬉しそうに言うけど、背後にぴたりとくっついてきているエリーさんとフレドリックくんは、その言葉を聞いて、ものすごく不機嫌な顔になっちゃったよ。


(その気持……わかるなぁ)


 エリーさんの顔にははっきりと「仕事を増やしやがって! コノヤロウ!」って書かれているよ。ついでに、額のところには見事な青筋がたっているよね。


 事前に『デートコース』についての王太子からの提示はあったとおもうけど……。


 ふたりの


「そんな報告は受けてない。この地区の調査担当者は誰だ!」

「直前のコース申請で時間がなかったとはいえ、これは……あんまりだ!」


 という心の叫び声が、いや、嘆きがオレには聞こえたようだった。


 で、他の近衛騎士たちは……人混みにもまれていて全く見えないよ。


(おいおい……)


 オレは護衛される側であって、護衛をしたことはないからね。


 それでも、今回のドリアのデートコースは、護衛には負荷がかかりすぎるということはわかるよ。

 コース内容に比べ、準備時間が短すぎるんだ。


 これはもう、嫌がらせレベルだよ。


 でも、わざと護衛を困らせようという意図があってこの場所を選んだのではなく、ドリアが純粋に、本当に、自分が行きたい場所をチョイスした結果、こうなってしまったのはその様子をみていたらわかるよ。


 だから、エリーさんとフレドリックくんは、顔をしかめることはしても、文句を言ったり、お忍びをとりやめようとはしなかったんだ。


 なんだかんだいって、みんなドリア王太子に甘すぎるんだろうね……。


「さあ、マオ。昼ごはんを食べるぞ!」

「え? どこで?」

「ここでに決まっているじゃないか」


 そういうと、ドリアは鳥の姿焼きを焼いて売っている屋台の方へと、ためらいなく歩いていっちゃったよ。


「よお! 兄ちゃん! 久しぶりだな!」


 ドリアに気づいた店主が、にかっと笑みを浮かべながら、元気な声で話しかけてくる。


「ああ。ちょっと……このところ、家の手伝いで忙しくて、外に出るヒマもなかったんだ」

「そうかい、そうかい。金持ちの坊っちゃんは大変だな……」

「まあな。ところで、調子はどうだい?」

「いやあ……。大神官長の国葬とのときは、市場も縮小しなきゃいけないし、なんか、国葬の期間も延びてしまって、散々だったよ」



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