第30章−1 異世界の一番はたくさんあります(1)

 馬車から降りると、そこは雑踏にあふれかえっていた。


 びっくりしたよ。


 馬車は共用の馬車止めに止まった。

 だが、後ろがつかえているということで、係員らしき者の誘導にしたがって、王室特性のおしのび馬車はすぐに立ち去っていく。

 お忍びだからね。

 王権乱用しちゃだめだもんね。


 小さくなっていく馬車の姿をのんびり見送ったオレたちは、今、街中の大通りにいた。


 大通りというだけあって、道幅はとても大きく、路面は石畳できっちりと整備されている。すごいなぁ。

 ゴミも落ちておらず、きれいなものだ。

 魔法の街灯が等間隔に設置され、街路樹や飾られた花がとても麗しいよ。


 両脇には三階か四階らしき、堅牢な建物がびっしりと並んでいる。


 ここはちょっとした商店街通りのようだ。一階は店舗になっており、入り口には様々な形の工夫をこらした看板がかかっている。


 ショーウィンドウを見る限り、高級品ばかりで、裕福層のための店だというのがよくわかったよ。

 出入りしている買い物客も、身なりのよい格好をしており、ほとんどの者が荷物持ちの従者をつれている。


 道路へと視線を向ければ、荷物を抱えた人々が忙しそうに行き交っていた。

 従者を連れ、上等な服を着た一団や、ツギハギだらけの服をまとった親子連れなど、身分も格好も様々だよ。


 王都を一望できた小高い丘とは真逆の賑やかさだね。

 明るい空の下、いきいきとした人々の喧騒に包まれ、オレは軽い目眩をおこしてしまった。


 この国の民はとても幸せそうだった。

 そして、裕福だね。

 光に満ちたとても眩しすぎる世界に、オレの胸が熱くなるよ。


 帰りたい。

 戻りたい。

 オレがいるべき場所は、ここじゃないんだ……。


 オレが統治していた『夜の世界』の民たちは、こんな笑顔を浮かべていたかな。

 オレは、彼らをちゃんと導くことができていたのかな……。

 こんなふうに、眩しい世界の中で生活はできなかったけど、彼らは日々の生活で、幸せを感じることがちゃんとできていたのかな……。


 そんな答えのでない問いかけを遮ったのは、ドリアの明るい声。


「マオ、こっちだ。ヒトが多いから、はぐれないようにしような」


 空に浮かぶ太陽よりも眩しく輝いているドリアが、オレの手を強く握りしめ、ヒトの流れに沿って歩いていくよ。

 商店街の店に入るつもりはないようだね。


「ど、どこに行くんだ?」

「この先にある市場に行くんだ。色々な出店があって、面白いぞ。わたしのいちばんのお気に入りなんだ!」


(ん? そのセリフ、さっきも聞いたような気がしたが……?)


 まあ、ドリア相手に、細かいことを言っても仕方がないだろうね。




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