第29章−3 異世界のエリザベスは熱烈です(3)
もう、驚きすぎて、自分がなにを言っているのかさえわからなくなってきたよ。
「オレが、え、えり……エリザベス……さんに、気に入られた?」
ちっともうれしくない表現に、オレの眉根が寄る。
「この実は、エリザベスの実です。数十年に一度、数個の実をつけるという……とても貴重で、瑞兆の徴ともいわれています」
(瑞兆の徴って……魔王の危機に怯える世界にソレはないだろう……)
「貴人の来訪に、エリザベスも発情し、奮発したのでしょう。一種の求愛行動です」
園長さんは、ニコニコと嬉しそうに笑っていた。
今、なんか、変な単語が聞こえたような気がしたが、空耳だろう。
園長さんとそういう会話がなされている間も、エリザベスの実は、途切れることがなくぼたぼたと落ちつづけている。
当分の間、実の落下は止まりそうにもない。
あの、獣のような鳴き声もどんどん大きくなってきている。
さらに付け加えるなら、地響きも激しくなってきているようだ。
「園長……。もしかして、勇者様が、ここにいる限り、この実は降り続けるということなのか?」
「左様でございましょうな……」
エリーさんの質問に、園長さんはのんびりと答える。
子どもたちが驚いて泣きわめいているんだから、もうすこし、緊迫感をもってほしいものだ。
「勇者様のご来訪に、嬉しくて目覚めたようですな」
(目覚め……いや、このまま、眠っていてください)
オレの顔色が悪くなったのはいうまでもない。
なんか、そのうち、興奮したとかで、動き出されても困る。
っていうか、なんで、オレは肉食花にからまれるんだ?
嫌すぎる……。
「フレッド、結界は維持したままで、一気に、出口までいくぞ」
キリリとした表情で、エリーさんがフレドリックくんに指示をだす。
「わかりました」
フレドリックくんの返事は短くてわかりやすい。
逃走ルートを確認しあうと、エリーさんは、オレたちの方へ向き直る。
「王太子殿下、勇者様、それでよろしいですか?」
エリーさんの提案に、オレたちは黙ってうなずく。
反論するなど許さないっていう気迫に圧倒されたというのが、正直なところだ。
「園長、わたしたちはこれで失礼する。見送りは不要だ。見学者へのフォローと、片付けを頼む。怪我人は……いないと思うが、後で報告を頼む」
(おおっ。なんだか、ドリアが王太子らしいことを言ってるぞ)
「承りました。よき、デートとなりますよう……」
ドリアの言葉に、元庭師団長さんは優雅に腰を折って応える。
こうして、オレたちは逃げるようにして、植物園を後にしたのであった。
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