第29章−2 異世界のエリザベスは熱烈です(2)★

「な、なんだ!」


 ドリアがオレを抱きよせ、エリーさんとフレドリックくんがオレたちをかばいながら、なめらかな動作で剣を抜き払う。


 エリーさん……太ももの中に剣を隠してたんだね……。


「うおおおおおおおんんん――!」


 地面が小刻みに揺れ始めた。


 と、突然。


 ぼたぼたぼたぼた……。

 ぼたぼたぼたぼた……。

 ぼたぼたぼたぼた……。

 ざざざざざ……。


 ものすごい勢いで、黄色い実が空から落ちてきた。


「痛っ! 痛い!」


 ひとつ、ひとつの落下の痛みはたいしたことがない。この程度で、オレのヒットポイントはびくともしないが、痛覚はあるので、痛いものは痛い。


 しかも、大量に、途切れることなく落ちてくると、地味に痛みを感じてしまう。


「イテっ」

「うわあああっ。なんだコレ!」

「いたた……」


 次から次へと、黄色い実が、容赦なくオレの上にドバドバと落ちてくる。

 オレのそばにいたドリアも、同じように実の洗礼にあっていた。


 実そのものには攻撃力などないのだが、なにしろ数が多すぎる。

 次から次へと、とまることなく落ちてきて、微妙に痛い。

 実の中に埋もれてしまいそうだ。


「肉食花の実だ! 斬るなよ! 果汁が飛散すると収拾がつかなくなる! フレッド、結界を張れ!」

「承知しました!」


 エリーさんとフレドリックくんの声に混ざって、怯えた子どもたちの悲鳴や泣き声も聞こえる。


 フレドリックくんが結界を張ってくれたおかげで、ようやく、実の落下を防ぐことができた。


 が、まだ、黄色い実は雨のように降り注いでいる。


(な、な、なんだ!)


 気がついたら、ツナギを着た庭師さんたちが、オレたちの周囲に出現していた。


 いや、消えたのも一瞬だったけど、でてきたのも一瞬だよな。


 半分はオレたちの周りで待機。


 そして、残りの半分は、怯えている子どもたちの救出にとりかかっていた。


「なあ……ドリア」

「どうした、マオ?」

「あの実だけどさ……。オレたちのところだけにしか落ちていないよな?」

「そ、そうだよな……?」


 オレの指摘に、結界の中にいたドリアとフレドリックくんは神妙にうなずく。


 黄色の実は、オレたちというか、ほぼ、オレめがけてピンポイントに落ちてきていた。


 奇妙なこともあるものだ。


「どうやら、勇者様は、エリザベスに気に入られたようですな……」


 フレドリックくんが作った結界の中に、エリーさんと執事風の園長さんが入ってくる。


「エリザベスさん……って誰ですか?」

「ああ、肉食花の原種には、エリザベスという名がついております」

「す、素敵な……お名前ですね」




***********

――物語の小物――

『エリザベスの実』

https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023211950511057

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