第29章−1 異世界のエリザベスは熱烈です(1)
巨木の姿に圧倒される。
「すごい……」
オレはもっと近くで見ようと、ドリアから離れて、足早に大樹へと近づいていった。
ドリア、そしてエリーさんとフレドリックくんが慌ててオレの後をついてくる。
大樹の周りには木の柵がはりめぐらされ、幹には直接ふれることができない。
オレは上を向き、生い茂る葉を眺めた。
木漏れ日が美しく、なにやら甘い香りが漂っている。
「立派な木だな……」
「そうだろう。これが、世界最古の肉食花の原種といわれている」
「…………ドリア、今、なんて言った?」
「世界最古の肉食花の原種だ」
「どれが?」
「この樹がだ」
木の幹の周りを、子どもたちが笑いながらぐるぐると走り回っている。
(こ、こ、これが肉食花だとっ!)
もう少しで腰を抜かすところだった。
危ない、危ない。
(いや、もう、ここまで育ったら、花じゃなくて、肉食樹だろうが!)
世界最古の肉食花は、とても静かで、大人しかった。
「推定樹齢、五千年とも、一万年とも言われているからな。もう、休眠期にはいっている」
オレはぼんやりとドリアの説明を聞いていた。
「昔は、この樹から株分けして肉食花を育てていたようだが、今は、めったにしないそうだ」
「…………」
世界最古の肉食花は、ハミングもしなければ、くねくねと踊ってもいない。ズリズリと歩いてもいない。
一体、どんな花をつけるというのだろうか?
一輪としたら、この木の大きさから推定すると、かなり巨大な花となるだろう。
心乱れるオレとは違い、肉食花は普通よりも立派な樹として、しずかに生い茂っている。
「今では、数十年に一度、数個の実をつけるくらいだ」
風が吹き、さわさわと葉擦れの音がきこえる。
風に乗ってふんわりと、よい香りがした。葉がこすれあって、香りが強くなる。
(ん? ……この香りは?)
覚えのある香りに、オレは首をかしげる。
と、いきなり頭にコツンとなにかが落ちてきた。
「い、イテっ……」
軽い衝撃に、反射的に頭を抑える。
「どうした? マオ?」
ドリアがオレのそばによってくる。
「今、なにか、頭に当たった……?」
足元を見ると、子どもの握りこぶしくらいの大きさの黄色い実がコロコロと転がっていた。
「これが、落ちてきた?」
オレはかがむと、その黄色い実を拾う。
香りの発生源は、この実のようだった。
「なんだ? これは?」
オレの問いにドリアも不思議そうに首をかしげ、後方にいたふたりに視線を向ける。
「こ、この実は……」
エリーさんが驚いたような顔する。
「うおおおおおおおんんん――!」
突然、獣のような叫び声が広場に響き渡った。
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