第28章−6 異世界の庭師は◯◯◯です(6)
「マオ、王城には、歌をうたう肉食花も栽培されているんだぞ。これよりも、もう少し大きな花だ」
「歌がうたえるのか?」
「ああ。オペラコーラスもできるぞ」
ということは、シンギングフラワーとでもいうのだろうか。
「ハミングフラワーの上位種です。優良株をかけあわせ、訓練した肉食花が庭園に植えてあります」
フレドリックくんが、補足説明をする。
「それって、こんなに小さい株じゃないよな?」
「はい。賓客の前で披露するものですから、それなりに見栄えのする大輪の株を厳選して育てています」
「……大輪……厳選……」
「ガーデンパーティーのときは、大活躍だぞ。マオも聞きたいか?」
「…………いや。遠慮しておくよ」
大輪という響きに不吉なものを感じたオレは、はっきりと断る。
ここで、「まあ、また機会があればな」とかいう婉曲的な断りをいれたら、勘違いしたドリアがガーデンパーティを企画してしまいそうだからね。
ノーと言っても、イエスと解釈してしまうドリアに、はたしてオレの真意が伝わったのかは謎だけどな。
ハミングを歌う肉食花に混じって、クネクネと揺れている肉食花もあったよ。
ハミングに反応して踊っているようだ。
ハミングフラワーよりも、花弁の多い八重咲きの肉食花だ。
――ダンシングフラワー。
肉食花の亜種。
一見すると普通の肉食花だが、音楽を聞くと踊り始める。ふりつけを教え込むことも可能。――
オレは無言でプレートの文字を読む。
その隣には、立て札がある。
――ダンシングフラワーは獰猛です。触れようとすると、手を食べられます。保護者の方は、お子様が絶対に、お手を触れないようご注意ください。なお、噛まれた場合は無理に引き剥がそうとはせずに、すぐさま大声で係員をお呼びください――
(なんで露地植えなんだ! 柵はないのか! お、檻の中に入れておけ!)
オレは心の中で思いっきり叫びながら、ドリアにしがみついていた。
ドリアがものすごく、嬉しそうな笑みを浮かべていたのだが、オレは気づく余裕もなかったよ。
異世界の植物園、怖すぎる……。
ハミングフラワーが可愛らしく歌い、ダンシングフラワーがくねくねと愉快な動きをみせる小道を抜けると、広場にでた。
出口前の芝生エリアだ。
ここでは、子どもたちが鬼ごっこや追いかけっこなどをして遊んでいる。
もう少し、年上の子どもたちは、敷物を広げ、そこに座って、ノートになにやら書き込んでいる。
今日の感想とか、レポートを書いているのだろう。
道は広場の中央を二分するようにまっすぐ伸びており、その先には、巨大な木が茂っていた。
大樹だ。
幹は太く、大人なら両手を思いっきり広げて、十人でようやくかかえられるといったところだろう。
実に、ほのぼのとした、ほっこりとする光景だ。
「うわああ……」
聖なる木といってもよいだろう。
木なのに、なにやらキラキラときらめいていて威厳がある。
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――物語の小物――
『立て札2』
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023213113208644
お読みいただきありがとうございます。
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