第28章−5 異世界の庭師は◯◯◯です(5)★

「この先が植物園の出口だ」


 花が咲き乱れた小道の先を、ドリアが指差す。


「えっと……ドリアのいう『この先』の手前に、肉食花エリアがあるみたいだけど……?」

「あ………」


 オレの指摘に、ドリアの顔が固まる。


 ちょっぴりいい雰囲気になりかけていたのに、いきなりこれか……。


 またエリーさんとフレドリックくんのため息が聞こえたぞ。

 うん。

 ため息をつきたくなる気持ち、すごくわかる。


 植物園の道には、いたるところに順路が表示されており、導線もしっかりとしていた。


 順路どおりに効率的に巡っていたら、肉食花エリアを避けることはできそうにもない。


「迂回しよう……」

「いや。いいよ。時間がもったいない」


 先程ちらりと目に入った園内マップを思い出しながら、オレはドリアの申し出を断った。


 肉食花エリアはそれほど大きくもない。だが、そこを避けて出口に向かおうとすると、かなりの遠回りになってしまう。


 初めていく場所なら遠回りもありだろうが、先程みたエリアにまた戻ることとなる。


 この先、ドリアがどれだけデートを予定しているのかわからないからこそ、時間のロスは避けたい。


 それに……。


 フレドリックくんに言われた通り、一度、ひどい目にあったからって、逃げてばかりではだめだろう。


 異世界から喚ばれた勇者たちもよく「逃げちゃダメだ」って言ってた。

 オレも一応、こちらの世界の勇者枠で喚ばれたからには、逃げるのはよくないだろう。


 ****


 出口と書かれた矢印に従って歩いていくと、なにやら、楽しそうなハミングが聞こえてきた。


 音楽が流れているのではなく、花が歌っていた。

 膝丈くらいの花が、小道沿いにずらりと植えられている。


 かわいらしいハミングなのだが、たまに開いた口からは、鋭い牙がびっしりと生えているのが見える。


 小さかろうが、そこは譲れないポイントのようだ。


「マオ、これも肉食花の一種だ」

「へ、へぇ……。か、可愛いな」


 足元でフンフンとハミングしている花を、オレは震えながら見下ろす。


 うん、オレを襲った肉食花よりは、だんぜん可愛い。


――ハミングフラワー。

 肉食花の亜種。

 一株だと普通の肉食花だが、数株植えると、ハミングをはじめる。メロディを教え込むことも可能。――


 という説明書きのプレートを読む。

 その隣にも、立て札がある。


――ハミングフラワーは凶暴です。触れようとすると、手を食い千切られます。保護者の方は、お子様がお手を触れないようご注意ください。なお、噛まれた場合は無理に引き剥がそうとはせずに、すみやかにお近くの係員にお声がけください――


 という、恐ろしい文章は読まなかったことにする。


(異世界の注意書き、怖すぎるだろ……)



***********

――物語の小物――

『立て札』

https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023212524799357


お読みいただきありがとうございます。

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