第28章−4 異世界の庭師は◯◯◯です(4)
植物園に来たのだから、オレではなく、植物を見ろと口にだしてなんども言ったのだが、ドリアに効果はなかった。
ドリアはオレの顔ばかりを見ている。
そんなにオレの顔は面白いのだろうか?
ずっと見ていて、飽きないのだろうか?
オレとドリアから数歩遅れて、フレドリックくんの完璧なエスコートで、エリーさんがついてくる。
その他大勢の変装した近衛騎士たちは、入り口や出口を固めているようで、温室内にはいない。
……というか、庭師に立ち入り禁止を言い渡されたようである。
「まあ……ちょっとした縄張り争いです」
温室に入ってこない近衛騎士たちを不思議そうに眺めていたオレに、フレドリックくんがため息混じりに説明してくれた。
なるほど……。
庭師たちは、近衛騎士が暴れて、丹精込めて育てた植物が傷つけられるのがいやなんだろうな。
植物園にいるのは、引率の教師と、リニー少年くらいか、それよりも幼い子どもたちばかりだ。
しかも、悪いことに、オレたちが温室に入るときは、入場制限をして、関係者以外の立ち入りを禁止している。
「子どもたちの邪魔をして悪かったな……」
と、ドリアがぽつりと呟いていた。
お忍びとはいえ、王太子が外出するとなると、警備とか、色々と大変だからな。
オレは……インドア派だから必要最低限しかでかけなかったし、それでも、でかけるときは、もっと巧妙にこっそりとやってたからね……。そこまで警備に力を注がなかったな。
まあ、これだけしっかりしていれば、植物園で王太子が襲われるというようなことは、まずないだろう。
オレたちはともかく、エリーさんとフレドリックくんのふたりづれは、仲のいいカップルに見える。
ふたりの息はぴったりで、行動に無駄がない。お互い、信頼しあっているのだろう。
ふたりは会話を楽しみ、植物を眺めるふりをしながら、周囲への警戒を怠っていない。
見事な連携に、オレの心がモヤッとする。
なんだか……。
ちょっと、おもしろくない……。
最後の温室の出口をでたところで、ドリアがオレへと優しく語りかける。
「マオ、庭師と学者に命じて、洞窟の中など、日の光がなくても育つ植物や、夜に咲く花を採取して、展示する区画を作らせている。次に来るときは、案内してやるぞ」
「あ……ありがとう」
次の外出の約束をとりつけられたような気もするが、優しい笑みと言葉に、オレはあっさり流されてしまう。
ドリアは基本、残念な子なのだが、オレのために、一生懸命考えてくれているのは素直に嬉しいし、いじらしい。
オレの住んでいた『夜の世界』のことを考えてくれているんだ。
ちょっとずるいな……。
王太子の腕が伸び、オレの腰をとらえて引き寄せる。
抵抗などできるはずもなく、オレはドリアに身をもたれかけながら、歩きはじめた。
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