第29章−4 異世界のエリザベスは熱烈です(4)
次の目的地に向かって、馬車はのんびりと進んでいる。
行き先は教えてくれなかったが、どうやら、街の中心部へとむかっているようだ。
そろそろお昼時だから、どこかの王室御用達のレストランで昼食でもとるのだろう。
(つ、疲れた……。まだ、大神殿には行かないんだろうな……)
馬車の中で、オレは大きなため息をつく。
今日はやたらと走っている。
今までの運動不足を一気に解消するかのような勢いだ。
(それにしても、植物園は怖かった……)
やはり、肉食花を相手にしている庭師は、普通の庭師じゃないんだ、とオレは妙に納得することとなった。
っていうか、この世界、オレにとっては危険すぎないか?
オレは本当に、魔王を倒すために旅立つことができるのだろうか。
もう不安しかないよ。
こんなのでは、途中で野垂れ死んでしまいそうだ。
元の世界に戻ったら、兵士たちのサバイバル訓練に参加した方がいいんじゃないだろうか……と、真剣に悩み始める。
肉体派にばかり囲まれていて……インドア派なオレには少々こたえる。
リニー少年の癒やしが欲しかった。
まだ昼前だというのに、早くも風呂に入りたくなってくる。
「マオ様……なかなかスリリングな植物園でしたわね」
暗い顔で黙り込んでしまったオレを気遣って、隣に座っているエリーさんが、オレに話しかけてくる。
だが、エリーさんのひと仕事を終えた後のような、朗らかな笑みもなんだか怖いよ。
今日は、リニー少年にお願いして、いつもよりも長めにマッサージしてもらおう……と、オレは心に決めた。
ドリアがオレと会話をしたそうな顔をしているが、植物園で体力を消耗したオレは、ドリアと視線を合わせないように、細心の注意を払う。
疲れ切っているオレに遠慮したのか、ドリアも無理には話しかけてこない。
まあ、ドリアがなにか口をひらけば、エリーさんが遮るだろうけどね。
「隊長……」
オレの正面に座っているほとんど空気なフレドリックくんが、恐る恐るエリーさんに声をかける。
「エリー様とお呼び!」
鋭い声で言い返されて、フレドリックくんは、一瞬だけ言葉に詰まる。
「……エリーさま、その手に持ってらっしゃるものはもしかして?」
「ええ。エリザベスの実よ」
エリーさんはそういうと、オレたちにもよく見えるように、子どもの握りこぶしくらいの大きさの黄色い実を右手に載せる。
馬車の中に、ほんわりと甘い香りが広がった……。
「た、い……エリーさま、盗んできたのですか! エリザベスは国宝指定樹ですよ。その実も国が管理しています。返却しましょう!」
フレドリックくんは、怖い顔をして一気にまくしたてる。
ドリアは興味津々といった顔で、エリーさんの手のひらの上にある黄色い実を眺めている。
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