第27章−3 異世界の植物園は敷居が高いです(3)

 特別な人をつくりたくない……と宣言しているのなら、ここでドリアに声をかけてはいけない。フレドリックくんの言葉に耳を傾けてはいけない。


 必要以上に、ヒトと関わってはいけない。

 そもそも、お忍びデートに付き合うこと自体が間違っているけど、オレの考えを裏切って、身体が勝手に動いてしまう。


 元気をなくしてしまったドリアの頬に、オレはそっと手を伸ばした。


 しょぼくれたドリアのうるんだ瞳が、オレの顔を映している。


 愛の証とか重いものは受け取れないけど、ドリアが必死にオレのことを考えてくれている気持ちは大事にしたいな。

 フレドリックくんの真摯な言葉にも応えたいよ。


 なのに、全てのことに対して応えようとしないオレは卑怯な男だ。

 深い仲になることを恐れて、逃げているオレには、ドリアに触れる資格はないよ。


 差し出された手を思わず握り返してしまったのは、間違いだった。

 オレのこの都合のよい態度は、相手に余計な期待をさせてしまう。


 こういう場合、オレはどうしたらよかったのだろうか。

 答えはわからない。突き放した方がよかったのだろうか。


 でも、オレは先に進むためにも、選ばなければならないんだ。


「ドリア……オレは、この国の、この世界の花をもっと見てみたい。……肉食花も……き、気になるしな。うん。い、いろ、んな、ひ、ヒンシュをしるのもワルクナイ」

「……マオ、無理はしなくていいんだぞ?」

「ムリハシテイナイ」


 歯がカチカチいってたり、足がガクガク震えたりしているのは……頼むからマジマジと見ないで欲しいよ。


「マオ様、大丈夫です。わたしたちがお護りします」


 フレドリックくんの言葉に、オレはカクカクと頷く。


 植物園に入るのに、こんな決死の覚悟が必要だとは思わなかったよ。


 怖い場所だな……植物園。


「ご安心ください。そのためのわたしたちです。マオ様に不埒な真似をする輩は、植物だろうが、生物だろうが、わたしが跡形も残らず焼き払い、一刀両断いたします!」


 指先からポッと、小さな炎が飛び出す。エリーさんは炎の属性持ちのようだ。

 指先に出現した小さな炎は、小さな炎のまま一瞬で消えたが、エリーさんの物騒な発言に、ドリアがびくりと震え上がっていた。


 うん、生物も含まれているからな。王太子の丸焼きが仕上がらないように、ドリアも自重してもらわないとね。


 しかし……エリーさんは、跡形も残らず焼き払った後に、どうやって両断するつもりなのかな。などと、つまらぬことを考えながら、オレは植物園の門をくぐったのである。



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