第27章−2 異世界の植物園は敷居が高いです(2)

 植物園は見てみたいが、やっぱり、あの肉食花には遭遇したくない。


「マオ様、よろしいでしょうか?」

「フレッド! 下がれ」


 エリーさんに叱責されながらも、フレドリックくんはオレの方に向かって、進み出る。


 片膝をつくと、オレの手をとり、オレの顔をじっと見上げてきた。

 オレを見つめるレドリックくんの赤い瞳は、いつになく真剣だ。


「バラに様々な品種があるように、肉食花にも様々な品種がございます。我が国では、植物の品種改良に対する研究も盛んですが、肉食花も学者たちの知的好奇心を大いに刺激し、研究、改良がされております」

「……そ、そうなのか?」


 無意識のうちに、オレは半歩後退していた。

 肉食花の研究って、死と隣り合わせというか、生命をかけた研究っぽいよな。なんて、デンジャラスなんだ。


 異世界の学者さんたちは一体、なにを考えているのだろうか……。


 異世界、やっぱり怖いよ。


「王城の警備をしている肉食花は、肉食花の中でも、最も賢く、最も凶暴とされている優良品種です」


(そうだろう、そうだろう。やっぱり、そうだったんだ!)


「マオ様……無礼を承知で申し上げますが、願わくば、ひとつだけを見て、すべてを判断されることのないよう。その広き視野を曇らせることなく、この世界、そして、ドリア様を見てください」


 フレドリックくんの言葉がぐさりと、オレの胸に突き刺さっちゃった。


 言葉の意味を把握できていないドリアは、いきなり自分の名前がでてきて、目をぱちくりさせている。


「……本を読めば様々な知識を得ることができます。ですが、本が全てではございません。知識を得る機会を、マオ様は捨てようとなさっています。花もヒトもひとつが全てではございません」


 真顔になったエリーさんが、黙って深々と頭を垂れる。

 フレドリックくんはオレから離れ、エリーさんの隣に並ぶと、同じように頭を垂れた。


 フレドリックくんの真摯な眼差しに、オレの胸がキリキリと痛む。


 オレが魔王として未熟だった頃、家臣たちが決死の覚悟と想いで、オレに忠言してきた姿と重なった。


「……そう、だったな」


 オレは軽く奥歯を噛みしめると、ざわざわと揺らぐ心と、肉食花に対する恐怖心に蓋をする。


「ドリアは、オレが花を見て喜ぶと考えてくれたから、植物園を選んでくれたんだな」

「そ、そうなのだが……わたしが浅慮だった」


 ドリアが申し訳無さそうに、目を伏せる。

 ものすごくわかりやすい反応だ。



***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る