第27章−1 異世界の植物園は敷居が高いです(1)

 オレたちは整備されたレンガ敷きの遊歩道を歩いていく。


 しばらくすると、優雅な曲線を描いた鉄柵で囲われた場所に着いていた。


「ここは?」

「植物園だ」

「植物園……?」


 知識では知っていたが、実際にこの目で『植物園』を見るのは初めてである。


 だって、オレが統治していた『夜の世界』では、限られた植物しか育たなかったからね。


 大量の珍しい植物を眺めたくなったら、品種改良を行っている機関を視察するくらいしかないからね。


 そもそも、研究機関でも、観賞用の花は扱っていないし、ぶっちゃけ、ほぼ畑だ。

 見た目重視ではなく、胃袋重視の植えかたしかしていない。


 こんなコジャレタ雰囲気が漂う場所ではなかったよ。

 安定した食料確保が可能な、丈夫な苗の開発でオレたちの頭の中はいっぱいいっぱいだったし……。

 というよりも、花を愛でるという概念がない者がほとんどだったからね。

 食えてナンボという世界だったからな。


 オレは息をのみ、白い蔓性の花が咲き誇る生垣をじっと眺める。


 これだけでも、すごいなぁと思ってしまう。オレの国にはなかったものだよ。


 植物園……興味はある。

 すごく見てみたい。

 だけど……。


「なあ、植物園ってことは、ショクブツが収集展示されているんだよな?」


 オレの当たり前すぎる質問に、ドリアが大きく頷く。


「そうだ。ここには、国内外の植物が、たくさん展示されているぞ。マオの部屋の温室も、室内も花でいっぱいだが、ここは、もっと、もっと、たくさんの珍しい花が栽培されているんだ」


 ドリアのその言葉は魅力的だ。

 だけど……。


「ショクブツってことは……肉食花もあるってことだよな?」

「あ…………」


 オレの指摘にドリアが固まっちゃった。

 そこにエリーさんとフレドリックくんのため息が重なる。

 そのため息に科白をつけるとしたら「なにやってるんだ、このマヌケ」だろうね。


 オレが肉食花でどんな目にあわされたのか、忘れたとはいわさないぞ。


 だからといって、肉食花の蜜を全身に浴びてオレがどうなったか、ここで暴露したら、ドリアであっても半殺しにしてやる。

 いや、半分では足りない。四分の三くらいまで殺したっていいだろう。許されるはずだよ。


「マオ。大丈夫だ。植物園は、先代の庭師団長や、引退したベテラン庭師が管理調教しているんだ。間違いは起こらないはずだ」

「…………」

「大丈夫。肉食花エリアには行かないから!」

「…………」


 調教って言葉が聞こえたぞ。

 管理ってことは、やっぱり、徘徊しているのか!

 エリア……ってことは、肉食花が群生してるってことだよな?


 ドリアがしゃべればしゃべるほど、オレのテンションはしおしおと下がっていく。

 急降下だ。




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