第26章−6 異世界のデートはイチゴが先です(6)
「ここが、わたしのいちばんのお気に入りなんだ! マオと見ることができてとても嬉しいぞ!」
「…………」
(い、いきなり、いちばんのお気に入りをもってくるのか……?)
こういう、景色の良い場所で語らう……というのは、デートのシメにするものではないだろうか?
これはオレの偏見か?
美しい景色で気分を盛り上げた後、アレヤコレヤという流れなのでは……?
「マオ? どうした?」
オレが微妙な顔をしたのに気づいたようで、ドリアが心配そうにオレを覗きこんでくる。
「……ドリアって、イチゴのショートケーキを食べるとき、ぜったいイチゴから食べるだろ?」
「な、な、なぜ、わかった? マオはすごいな」
オレの指摘に、心の底からドリアは驚いているようだった。
エリーさんとフレドリックくんのため息がここまで聞こえたよ。
素直というか、一直線というか……。
「ドリアらしくて、それはそれでいいと思うぞ」
振り回されてばかりだけど、これはこれで楽しいかもしれないね。
オレに褒められた……と思ったのだろう、ドリアの顔がぱっと輝いた。
「一日中、ここでのんびりしていてもいいんだが……」
(いや、それは困る。大神殿にオレは行きたいんだ……)
「……次の場所に移動しよう。この丘を少し歩いた先にあるから、このまま歩くぞ」
****
オレの返事を待たずして、ドリアは歩き始める。
エリーさんとフレドリックくんも歩き始めたよ。
アイテムボックスからだしたのだろう。
フレドリックくんは白いパラソルを広げ、エリーさんを日差しから守るようにして歩いている。
「あ、あれは……なんだ?」
ドリアがフレドリックくんを指差す。
「パラソルだろ?」
オレの真面目な答えに、ドリアはフルフルと首を振る。すごく、羨ましそうな視線をフレドリックくんに注いでいる。
「すごく楽しそうだ……」
「そ、そうかな……?」
ドリアの指摘にオレは首をひねる。
フレドリックくんはいつもの任務遂行中の無表情だが、楽しそう……なのか?
ちょっと違うような気もするのだが、エリーさんとのデートを内心では楽しんでいるというのだろうか。
なんか、ちょっと、納得できない。
「マオ、すごいぞ。ふたりで一本の傘を使っているぞ。カップルがくっついて、すごく楽しそうだ」
「ああ……。相合い傘か?」
「アイアイガサ? 愛がいっぱいある傘なのか? いいな。わたしたちも……」
「やらないぞ」
オレは即答する。
パラソルなんて持ってないだろうし、まあ、ドリアが命じたら、護衛のだれかがどこからか調達してくるだろうけど……。
あまりにも恥ずかしすぎるよ。
ドリアがしゅん、と項垂れてしまったが、オレはもう一度、念押しする。
「相合い傘はしない。やれと言うのなら、その時点で、デートは終了だ」
オレの言葉にさらに項垂れる王太子。
見ていてすごく哀れだが、オレにだって、できることとできないことはあるんだからね。
「わかった。わたしは、マオが嫌がることはもうしないって決めたんだ」
そう言うと、ドリアは気を取り直して、次の目的地とやらを目指して歩きはじめた。
***********
お読みいただきありがとうございます。
フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。
***********
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます