第26章−1 異世界のデートはイチゴが先です(1)

 馬車の窓には二重のカーテンが閉められており、外からは馬車の中の様子は見えないようになっている。


 だが、オレの方の窓には少しだけカーテンの閉めがあまくて、そこから外の様子を見ることができたんだ。


 はじめての外出に対するオレへの配慮だろうね。

 目隠しされて現地に連行される……というような流れではなくて、まずは一安心だよ。


 城から出ると、最初の方は上級貴族の王都滞在用の屋敷が建ち並んでいた。

 といっても、屋敷そのものは全く見えない。高くて長い塀が延々と続いて、そこからのぞく木々しか見えなかったよ。

 すごいねえ。


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 しばらくすると、塀と塀の間隔が短くなり、庭付きのゆったりとした屋敷が見えるようになってきた。


 上級貴族のエリアから中級貴族のエリアへと移動したようだ。

 上品で美しい外観の屋敷がしばらく続いた。


 中流貴族の屋敷から、下流貴族の屋敷になり、そこで一旦、高い壁に到達する。


 貴族街と平民街を区別する境界壁だそうだ。

 身分を分けるという意味と、様々な意味での防壁としての役割があるのだろうね。

 門のところで、簡単な手続きを済ませると、馬車は再び進み始めた。


 広い道に、オシャレな外観の建物が規則正しく並んでいる。


 庭はないけど、等間隔で街路樹が植わっており、鉢植えの花を飾っている建物が多いな。魔力で灯る街灯も設置されているぞ。道路の状態もすごくいい。


 城から近いこともあるからか、ゆったりとした、清潔で整然とした街並みだった。


 道中、エリーさんが街の要所を色々と説明してくれた。

 フレドリックくんは無言。

 ドリア王太子はなにかしゃべりたそうな顔をしているが、口を開こうとするたびに、エリーさんに「キッ!」と鋭い目で睨まれ、あわあわと口を閉じている。


 そういう不毛なやりとりが、もう見飽きたくらいに何度も繰り返されたよ。

 あきらめの悪いドリアの中途半端な根性もすごいけど、エリーさんの威圧はもっとすごかったね。


 馬車がガタゴトと揺れ、緩やかな登り坂を進みはじめる。

 王城から見て、西側の小高い丘を目指しているようだった。


 ****


「勇者様は、ドレスはお召しになりませんの?」


 エリーさんの爆弾発言に、オレは肝を冷やす。

 オレを女装させて連れ出す案があったのかな?


「ど、ドレス……ですか?」


 心臓をドキドキ、バクバクいわせながら、エリーさんに視線を移した。


(お、おちつけ! オレ!)


 これは、いわゆる、ダブルデートでの女子トークというものだよ。

 メイドたちもそうだったが、女子はオシャレの話が大好きだったからね。




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