第25章−3 異世界のポニーテールは最凶です(3)

 さきほど、オレたちを軽々と宙に放り投げた人物が、王太子をどなりつける。


 いや、オレにしてみれば、アンタこそ、なにをしてくれたんだ、と言ってやりたいよ。


 薄緑色の外出用ドレスをまとった、ポニーテールの淑女が、腰に手をやり、プンプンと怒っている。

 女性にしては、すらりとした背の高いヒトだ。姿勢もすごくいいので、余計に背が高くみえる。


 うーん。

 彼女も今日の王太子プロデュースのお忍びデートに同行する近衛騎士なんだろうね。

 初めてみる顔だな。


 あの、突進して止まらなかった王太子の前に躊躇なく立ちはだかり、オレと一緒に、天高く放り投げた……女傑だ。恐ろしく、強そうだ。


「エリーこそなにをするんだ!」

「言い訳無用! こんな無茶をして! 勇者様の身になにかあったらどうなさるおつもりですか!」

 

 いや、どっちかっていうと、アナタの方が、ためらうことなく、軽々とオレを宙に投げてたよね……。


 フレドリックくんは……空気と化して、この場をやり過ごそうとしている。


 うん、正しい判断だと思うよ。


 このヒトには勝てそうにもない。


「ああ……なんということでしょう。勇者様の玉体に傷が……」


 エリーさんは、オレの手をとり、うるっと瞳をにじませる。


 オレほどではないが、上品な顔立ちの美人さんだ。


 近衛騎士の制服を着て、キリッとしている凛々しい姿が簡単に想像できるな。

 

 エリーさんが見つめているのは、オレの右手首。

 王太子に握られてたところが、赤くなってる。指の跡がくっきりとついていた。


「ああ……。なんと……おいたわしい。さぞかし、痛かったでしょう。例え王太子殿下であっても、勇者様を傷つけることは許されませんよ!」


 朗々としたハスキーボイスで、エリーさんは王太子殿下を叱りつける。


「いや、わたしはマオを傷つけるつもりは……」

「言い訳無用! こういうときは、どうするんでしたか?」


 でで――ん、という効果音が聞こえてきそうだ。


 オレの赤くなった手首を見て、さらにエリーさんに怒られて、さすがのドリアも反省しているみたいだ。


「すまなかった……。わたしが悪かった」


 おっ。ドリアがちゃんと「ごめんなさい」できているじゃないか。


 オレがちょっと感動していると、エリーさんは大きく首を横に振ってダメ出しをする。長めのポニーテールが、首の動きに連動して振り子のように揺れ動いた。



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