第25章−1 異世界のポニーテールは最凶です(1)

 ドリア王太子はオレの手を掴むと、いきなり走り出した。


 軽やかではない、いきなりガチな猛ダッシュだ。


(え、えええええ……っ)


「ちょ、ちょっと……ドリア。城内では走るな!」


 王太子のいきなりな行動に、近衛騎士たちの反応が遅れる。


 それでも、彼らも仕事柄、必死になってオレたちの後を追いかけてくる。


 はるか後方でリニー少年の「いってらっしゃいませ」という声が聞こえた……ような気がした。


 途中、廊下や階段ですれ違う文官らしき人たちが、慌てて端に寄り、驚きの表情のままオレたちを見送る。


 それにつづいて、冒険者や旅人の恰好をした近衛騎士たちが、オレたちを追って、わらわらと通り過ぎていく。


 このときになってようやく、先頭を行くのが王太子だとわかると、文官たちは慌てて臣下の礼をとるが、その頃には王太子ははるか前方を走っていた。


「おい、コラ! ドリア! 落ち着け! 近衛騎士のひとたちを困らせてどうする!」


 王太子たるもの、堂々と、悠然と構えていなければならない。


「マオ。心配いらない。そのうち追いつく。それよりも、時間がもったいない。急ごう!」


 いや、これ以上、急がれても……。


 オレはインドア派なんだよ。

 そろそろ息が……というか、足がもつれてきたかな。


 ハイスピード全力ダッシュマラソンは、カンベンしてくれよ。


 しかも、追い上げタイプのようで、容赦なくスピードもあがってきている……。


 前々から思っていたけど、ドリアの持久力が恐ろしいよ。

 ついでにいうなら、夜の精力もすごい。


 ひとつひとつのスペックは高いのに、空回りしているというか、上手く活用できていないのが、なんとも残念だ。


 近衛騎士たちの気配はすでに全く無いよ。

 はるか後方に置いてきてしまっている。


 ぶっちぎりのスピードに、誰も追いつけない。


 うん。普通は無理だろう。


 この全速力は……馬といい勝負。

 いや、これは馬よりも速い。


 限界を感じたオレは、筋力増強のブースト魔法を自分自身にかける。

 これで、ちょびっとだけだが楽になった。


 ついでに、スロウの魔法をドリアにかけたが……抵抗されてしまった。


 おい……。魔王の魔法に抵抗できるって、どんなステータスなんだよ?


「わたしのスピードについてこられるなんて、さすが、マオだな」


 って、嬉しそうに言うんじゃない。


 ついてこられなかったら、どうするつもりだったんだ!


 このままずりずりと、オレをひきずっていくつもりだったのか!



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