第23章−6 異世界のお茶は苦いです(6)
その様子は、暗黒時代と『昼の世界』の歴史書に記されたくらいである。
その回は、オレが成熟するのを待たずに、異世界から勇者が五人も召喚され、早々にオレは討伐されてしまった。
五人の勇者のうち、三人が瀕死の重傷を負い、二人は死亡直前で女神に救われ、勇者のサポートとして同行していた者たちは全滅……という、大惨事となった。
女神ミスティアナは、魂のひとかけらに戻ったオレに向かって、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにさせながら、
「ごめんなさい」
と、オレに何度も謝ってきた。
最初、なぜ、女神がオレに謝罪するのかよくわからなかった。
世界をめちゃくちゃにしてしまったのはオレなのに……。
異世界から召喚された勇者を半殺し……じゃなくて、ほぼ殺しかけたのに……。
「魔王ちゃん、魔王ちゃんばっかりに、辛い想いをさせてごめんなさい。魔王をやるのが嫌なら、もう辞めてもいいのよ」
優しい女神の言葉が、オレの魂に響く。
「辞めたら、世界はどうなる?」
「新しい魔王を探してくるから安心して」
いやいや、それって……。
結局、誰かが苦しむことになるってことだよね。
誰かが無理やり魔王の役をやらなければならないということだよ。
なんて……。
なんて……。
女神は残酷なんだろうね。
誰かの犠牲のうえで、成り立つ世界。
それは、女神の意思なのか、女神にもどうすることができない世界の決まりごとなのか。
ただ、これだけは、魂のひとかけらとなってしまっても、はっきりとした意思として存在した。
オレのような苦しみを、他のヤツには味あわせたくない。
幸いにも、オレは何度も復活することができるスキルを持っている。
この想いを戒めとして、今回犯した過ちの贖罪として、オレは魔王でありつづけることを選んだのだ……。
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フレドリックくんの瞳にかすかな潤みがみられる。
だが、彼はなにも言わなかった。
沈黙したまま、リニー少年が用意してくれた紅茶を飲み込む。
「オレは元の世界に戻らないといけないんだ……」
オレの言葉に、フレドリックくんは悲しげに視線を伏せる。
「心配するな。王太子殿下には、そのうちふさわしい人物が現れるさ……」
「勇者様……」
フレドリックくんがなにか呟いたが、オレの耳には届かなかった。
「特別なヒトは、オレにはいらない」
自分自身に言い聞かせると、オレは紅茶を口にする。
蜂蜜を入れ忘れた異世界のお茶は……とても苦かった。
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お読みいただきありがとうございます。
本日のお茶はとても苦かったようです。
三十六回も魔王をやっていたら、色々とありますね。
フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけると幸いです。
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