第23章−5 異世界のお茶は苦いです(5)
大地は荒れ、小さな諍いが争いを呼び、より大きな争いを引き起こしていく。
『昼の世界』でも『夜の世界』でも、『昼と夜の世界の間』でも、それは等しく起こった。
世界が嘆きに染まったとき、いつもどおり女神より啓示を受けた聖女が、勇者を召喚した。
六代目の勇者は、元気なJKだった。
勇者のこともあまり覚えていない。
オレは当事者であるはずなのに、残された記録と、生き残った部下の話を聞いて知識として知っているだけだ。
六代目の勇者は、明るく、前向きで、ちょっとやそっとの障害にはへこたれない、タフさも持ち合わせていた。
彼女は同性の仲間たちと幾多の試練を乗り越え、瘴気の影響で狂った世界を修正していったという。
その道筋に迷いはなく、順調に勇者は仲間との友情を育みながら、勇者一行は真っすぐ魔王城に到着したそうだ。
過去の五回の勇者の旅と同じ結末を迎えようとしていた。
ただ、過去の五回と違うのは、特別なヒトを残したまま、オレは討伐されてしまうということだった。
勇者を倒せないのなら、一緒に逃げよう、どこか遠くで、ふたりだけで暮らそう……と、オレが好きになったヒトは、勇者が魔王城に到着する前日に、涙を流しながらオレを力いっぱい抱きしめてくれたらしい。
あんなに他人に優しかったヒトが「世界なんかどうなってもいい」とまで言って、オレを拘束して閉じ込めようともしたそうだ。
当時のことをオレに告白した侍従長は、涙を流しながら、オレの質問に答えてくれた。
だが、オレはそのヒトが生きる世界を護りたくて、そのヒトの願いを叶えてやることはせずに、オレは勇者に討伐される道を選んだのだ。
次に復活したときに、再び会えることを願って、真っ先に会いに行くことを誓い、オレは勇者に倒された。
昏い場所で、オレはひとり、復活の時をじっと耐え忍んだ。
オレは大切なヒトとの再会を夢に見ながら、カラオケというものと、歌うことが大好きなJK勇者の楽しい記憶を肴に、緩慢な時を過ごした。
数百年のもどかしい時をかけてオレが復活したとき、特別だったヒトはすでにこの世を去っていた。
彼は長寿の種族だった。
彼はまだ若かった。
絶対に会えるはずだったのに、オレの大切なヒトは消えていなくなっていた。
親族にはめられて、王太子の位を剥奪され、罪人として処刑されたという。
どうして、そんなことになってしまったのだろうか。
ただ、オレは、後悔と絶望に押しつぶされた。
オレの不安定な精神は、世界に大被害をもたらすこととなった。
世界は半壊し、たくさんのヒトが傷つき、オレの嘆きは、たくさんの国を滅ぼしてしまった。
彼が愛した国、彼が生まれ育った国も、半狂乱となったオレは壊してしまった。
真っ先に壊してしまったそうだ。
『昼と夜の世界の間』はこのときに消滅してしまい、世界は『昼の世界』と『夜の世界』だけになったという。
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