第23章−3 異世界のお茶は苦いです(3)
今まで、伴侶をすすめてくる重臣たちはたくさんいたよ。
それこそ、数えきれないぐらいいた。
オレにナイショで見合いだの、運命的な出会いをセッティングするおせっかいなやつらもたくさんいた。
純粋にオレのことを思って。
『夜の世界』の行く末を心配して。
己の欲を満たすために。
動機は様々だったけど、そのことごとくをオレはしりぞけていた。
果敢にも実力行使、既成事実を作ってやろうと考え、夜這いをしかけてくるやつらもいた。
めんどくさいな、しつこいな、煩わしいな、といった感情はあっても、こんなに不愉快な気分になることはなかったね。
異世界に来てまでも縁談をすすめられるとは、うんざりする。
しかも、フレドリックくんの口から、そんな話がでるとは……。
心がギリギリと痛んだ。
オレはフレドリックくんから、手元の紅茶へと視線を落とす。
ヒトが動く気配がし、ふたりぶんの新しい紅茶が目の前にそっと置かれた。
リニー少年は紅茶を取り替えると、オレの心情を悟ったのか、今度は壁際まで後退する。
「オレはもう、特別なヒトをつくりたくないんだ……」
フレドリックくん、いや、 フレドリックくんにこの発言を命じた人物たちに向かって、オレは言葉を発した。
オレがさっき、ドリアに言いたかったことだ。
ドリアの純粋な心を傷つけてしまう残酷な言葉。
「特別なヒトは、オレにはいらない」
オレの告白を聞いたフレドリックくんの反応は、とても静かで穏やかなものだった。
オレの眼の前に座っている、ということを忘れそうなくらい、気配もなくじっとしている。
オレの言葉に反論も同意もない。
だが、オレに無関心というわけではなく、ただ見守ってくれている、というのが伝わってくる。
このとき、オレはフレドリックくんに甘えたかったんだと思う。
ドリアの真っすぐすぎる気持ちから逃げたかったんだろうね。
その逃げ場を、オレは愚かにもフレドリックくんに求めてしまったんだ。
オレの胸の中にずっとしまっていた、決して口にしてはならない擦り切れた過去への想いが、あふれでてくる。
「オレはひとりのままがいい。ひとりで生きていきたい。オレはひとりで生きていないといけないんだ」
つきあいの長いポンコツ女神にさえ話したことがなかったのに……。
美味しいお茶と甘いケーキ、そして、フレドリックくんの穏やかな眼差しが、オレの口を軽くしたのだろうか。
それとも、ドリアの言葉に、オレの消えかかっていた記憶が刺激されたからなのか……。
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