第23章−2 異世界のお茶は苦いです(2)
フレドリックくんは紳士だよ。
優しくて、男前で、任務にとても忠実だ。邪心なく、オレを護衛してくれて、ついでに、オレをとことん甘やかしてくる。
『不可思議怪奇奇譚』に怯えきったオレを助けてくれたのは、フレドリックくんだからね。
リニー少年は隣ですやすやと眠っているだけだから。
フレドリックくんは、毎晩、毎晩、ガタガタ震えるオレに寄り添い、優しく抱きしめてくれたんだ。
たったそれだけのことだけど、オレは安心して眠ることができた。
ずっと前に、付き合ってみないか、とか、口説くとか言ったわりには、フレドリックくんにそんな気配は全く無い。チャンスは毎晩あったのにね。
王太子との関係があんなのだったから、フレドリックくんともそういう関係になるのだろう……と思っていた自分が恥ずかしいよ。
もう、こちらの世界では、恥ずかしいことばかりしているような気がする。
早くもとの世界に戻りたいよ。
見た目からではなかなか判別がつきにくいが、たまにだけど……かすかにだけど、フレドリックくんが微笑むことがあって、それがめちゃくちゃ……オレの心を揺さぶってくるんだ。
ドリアの笑顔がキラキラなら、フレドリックくんの微笑は甘々だ。
「勇者様なら、もうお気づきでしょう。王太子殿下は、おひとりでは生きていくことができないお方です。王太子殿下は真っすぐで、眩しすぎます。曲がるということを知らぬお方です」
フレドリックくんはそこまで言うと、ぎゅっと己の手を握りしめる。
少しばかり逡巡した後、意を決したように口を開いた。
「王太子殿下には、常にお側に寄り添う方が必要です」
「…………」
フレドリックくんと目があう。
主君を、ドリアを大事に思っているフレドリックくんの熱意が伝わってくる。
オレの胸に鈍い痛みが走った。
その痛みはおさまるどころか、じわじわと広がり、オレを重苦しい気持ちにさせていく。
彼がなにを言いたいのか。
常にお側に寄り添う方……が、誰のことを言っているのか。
改めて問いただす必要はないだろう。
愚鈍なフリをしてもよかったけど、真摯な光をたたえるフレドリックくんの目を見ていたら、それは許されないような気がした。
でもなぜ、フレドリックくんはそんなことをオレに言うのだろうか。
フレドリックくんはずっとオレの側にいた。オレがどれだけ元の世界に戻りたいのか知っているはずだよ。
なのに……。
フレドリックくんの行動の基準は、『王太子殿下が大事と思っているオレを、様々なことから護る』……なんだなぁ、と悟ってしまった。
と同時に、フレドリックくんとの間には埋まることのない距離、越えられない壁があるのを、このときのオレは知ってしまった。
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