第23章−1 異世界のお茶は苦いです(1)

 オレは呆然と、閉じられた扉を眺めていた。


「父が失礼いたしました……」


 フレドリックくんは席を立つと、膝まづいて深々と頭を下げた。


「あ……いや……。椅子に座ってくれ。まだケーキもお茶も残っている」

「いえ、わたしはこれで……」

「フレドリックくん、お父上の無礼を詫びるなら、まずは、オレの命令に従わないといけないよ」


 護衛任務に戻ろうとするフレドリックくんを、オレはやんわりとたしなめる。


 フレドリックくんは立ち上がると、ゆっくりとした動作で座っていた椅子に座りなおした。


「時間と距離を置くと、冷静になってくれると思ったんだけどなぁ……」


 ため息と一緒に、本音を口にだす。


 なぜ、ドリアがオレを気に入ったのかはわからない。


 肉食花の蜜のせいであるのなら、時間とともにその迷いはおさまるだろう……と考えたのだが、距離を置いたことで、逆に、想いが強くなってしまったのだろうか。


 周囲もドリアの想いを理解し、許容しているのが、なかなかに厄介だ。


 オレが知らないだけで、面白がって王太子を煽っている何者かがいそうである。


 この世界は、同性同士のカップルに寛容で、王族の中にも、国王の中にも、同性を配偶者に迎えたという記述をオレは見つけていた。

 同性同士でも、子を残すことができる方法も様々あるようだ。


 だからこそ、騎士団長は、オレの拒絶の気配を察知すると、無礼を承知で、慌てて乱入してきたのだろう。


 っていうか、この部屋のコトは筒抜けなんだな……。


「……ご自分の気持ちを偽ることはせず、とてもご自由なお方ですから」


 フレドリックくんの口からポロリと本音が漏れてしまったようである。


「……王太子として致命的だなぁ……」


 まあ、だからこそ、ためらうことなくオレにグイグイ迫ってくるんだろうね。


 純粋に、ストレートに気持ちをぶつけてくるドリアを鬱陶しく思うときもあるが、同時に、眩しくも感じるな。


 とはいうけれど、ドリアは王太子だからね。

 未来の国王なのだから、腹芸はできないといけないな。

 国を治め、多くの民を守って導く者は、白を白とは言えないときだってあるからね。


 オレの指摘に、フレドリックくんはゆっくりと目を伏せる。


 沈黙がフレドリックくんの答えだった。

 否定はしない。だが、立場上、肯定することもできないのだろうね。


 自分のことに関してはとたんに無口になるフレドリックくんだが、たまに本音がこぼれるくらいには、オレとの距離が縮まってきたということだろう。


 そのことがなんとなく嬉しい。


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