第22章−5 異世界のケーキは絶品です(5)

 オレになにができるというんだ?


 下手にドリアのやる気をそいでしまって、残務処理のスピードが遅くなっても困る。仕事が手につかなくなったら、大問題だからね。


 フレドリックくんの見守るような生暖かい眼差しが、少しばかりつらい。


「マオとのデート、楽しみだな」

「そんなに楽しみなのか?」

「もちろんだ」


 ドリアの手に力がこもる。

 ちょっと痛いぞ……。


「だって、大好きなヒトと一緒に外出して、同じ景色を見て、同じ時間を過ごして、たくさん楽しいことをするんだぞ。そして、愛を確かめ合って、育んで、より深いものにしていくんだぞ? 楽しみに決まっているじゃないか?」


 ドリアの一途で、純粋な想いに、オレは圧倒されてしまう。


「大好きなヒト……」

「そうだよ。マオ。わたしは、マオのことが大好きなんだ。愛しているんだ!」


 震えが走るくらい真剣な瞳で見つめられ、オレの心が苦しくなる。


 ドリアの嘘偽りのない真っ直ぐな言葉がオレの魂の奥底に突き刺さり、消えかけていた記憶に揺さぶりをかける。


 駄目だ。


 このままでは駄目だ。


 真摯な想いには、ちゃんと向き合わなければならない。


「い、いや……。駄目だ。オレは……ドリアのことは……」


 オレの意図を察したフレドリックくんの顔がこわばり、オレの言葉を遮ろうと口が開きかけるのが視界の隅にうつった。


 そのとき、派手な音をたてて、部屋の扉が開いた。


 必死の形相で、騎士団長……フレドリックくんのお父さんが、転がるように乱入してくる。


「王太子殿下! お時間ですっ!」


 いつになく取り乱している。


「えええっつ! まだ、話の途中……」


 ドリアが抗議するが、騎士団長は構わず王太子の手をとり、腕をつかみ、椅子から無理やり立ち上がらせる。


 勢いがつきすぎてドリアが座っていた椅子が派手な音をたててひっくり返るが、気づいていないくらい騎士団長は焦っていた。


「王太子殿下、急ぎ、処理していただきたい書類があるとのことです。さ、さ、さ、参りましょう」


 一刻も早く、この部屋からドリアを連れだそうと……いや、オレの前から連れだそうと必死である。


「いや、ちょっと、待って! オレはドリアに言いたいことが……」

「ゆ、ゆ、勇者様、そ、それは、今、しばらく……今、しばらく! 胸のうちに!」


 そう言いながら、騎士団長はドリアをぐいぐい引っ張っていく。


「待て! ちゃんと戻るから、逃げないから! マオがなにか言いたそうだから、それを聞いてからでも……」

「いえいえ。それでは、遅くなってしまいます。ささ、宰相閣下もお待ちです」


 部屋の入り口付近でしばし押し問答があったようだが、騎士団長の勢いに負けてしまったようで、ドリアはオレに退出の言葉を残すと、そのまま執務室へと連れていかれてしまった。



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お読みいただきありがとうございます。

王太子殿下の脳内は常春なお花畑のようですな! いまは、いつ実現できるのかわからないデートプランでいっぱい、いっぱいです。

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