第22章−3 異世界のケーキは絶品です(3)

 金髪碧眼の小姓は頬を赤く染めて嬉しそうにはにかみながら、テーブルから少し離れた場所で待機する。


 気のせいか、この頃、リニー少年の可愛さがアップしたみたいだ。


 どこが、と改めて問われると返事に困るけど、笑い顔であったり、仕草であったり、ひとつひとつがびっくりするくらい可憐で可愛いのだよ。


 口の中からようやく甘さがぬけきったのか、フレドリックくんのこわばった表情が少し緩む。


 熱いお茶を優雅にごくごくと飲んでいる。

 甘いものは苦手なようだが、お茶は好き……なようだね。


 これがドリアだったら「大好きなマオが大好きなものは、わたしも大好きだ。嫌いであるはずがない」とか、わけのわからない論法で、苦手な食べ物も克服しそうだ、とぼんやり考えながら、オレも紅茶を飲む。


 お茶を飲むフレドリックくんを眺めながら、オレは二個目のチョコレートケーキに手を伸ばした。


 ドリアが「まだ食べるのか」といった驚きの表情を浮かべたが、オレは無視する。


 フレドリックくんと違って、ドリアはすぐに表情にでてわかりやすいよ。


 豊かな表情は、見ているぶんには楽しい。目と心の養分補充になるね。

 しかし、表情にでる前に、残念な本音が口からでてくるのは問題だ。


「ところで、マオとの『ご褒美お茶会』に、どうして、フレドリックがいるんだ!」


 ドリアがプリプリ怒りながら、カップを皿の上に戻す。

 カップと皿がぶつかって、カチャリと派手な音をたてる。


 ドリアはかなりご立腹のようだが『ご褒美お茶会』って……なんか、聞いていて恥ずかしいネーミングだ。


「いや、だって……」


 三個目を今すぐ食べるか、それともしばらく時間をおいてからにするか迷いながら、オレはフレドリックくんの方へと視線を向ける。


「おふたりだけだと、お茶会ではなくなるから……だからですよ」

「……だ、そうだ」


 ひとたび失った信頼を回復させるには、相応の努力をしなければならない。……ということだよ。


 それを聞いたドリアの顔が不機嫌そうに歪む。が、ここで文句をいっても、無駄に時間を消費するだけなので、ドリアは大人しくなる。


 オレがドリアとのお茶会を承知したのは、フレドリックくんが同席し、リニー少年も退席せずに控えているから大丈夫、と宰相から言われたからだ。


 一日の執務が終了した寝る前のお茶ではなく、政務中の休息時間にあたる午後のお茶会を指定したのも、オレの警戒心を弱める目論見があったのだろうね。


 王太子が変な気分になってしまっても、まだ政務が残っているということで、強引に連れ出すことができる……というわけだよ。


 そこまで言われたら、オレに断ることはできないよね。




***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る