第22章−2 異世界のケーキは絶品です(2)

 この世界のマナーを尊重して、フレドリックくんとドリアが食べ終わって『無事』なのを確認してから、オレはチョコレートケーキに手を伸ばす。


 オレが手にしたチョコレートケーキは、すごく繊細な飾りが施され、見た目からして楽しめる。

 食べると、蕩けるように甘くて、ほんのり果物の味もした。


 空腹が満たされるという感覚はよくわからないけど、甘くて美味しいものを食べたら、幸せな気分になれる。


 こんな素晴らしいものを作れるパティシエさんに拍手を送りたい。


 フレドリックくんもドリアも、一個でギブアップなようだが、この美味しさと大きさなら、五、六個は余裕でいけるね。


 蜂蜜がたっぷりと入ったお茶も美味いよ。


 数日前に、思わず美味しいと呟いてしまった菫の蜂蜜が再び登場していた。


 オレが喜ぶと思って、手配してくれたのだろうね。


 オレがお茶に蜂蜜を入れたのをみたドリアが、蜂蜜の小瓶へと手を伸ばす。


 が、ドリアが小瓶を手に取るよりも、フレドリックくんの動きの方が素早かった。


 小瓶を手にとると、そのままリニー少年に手渡す。


(あ……もっと、いれたかったのに……)


「王太子殿下は、蜂蜜は口にしてはならない、と医師から言われているではありませんか」


 フレドリックくんの言葉に、リニー少年も大きく頷いている。


「また、倒れられたらどうなさるおつもりですか?」

「いや、でも、わたしは、マオと同じものを口にしたい……」


 ドリアの言葉に、フレドリックくんはこめかみを抑え、リニー少年は表情を険しくする。


「発疹だらけで、腫れあがった面白い顔を、勇者様にお見せしたいのなら、ご自由にどうぞ。一週間、高熱にうなされるのがお好きなら、どうぞお使いください」

「い、いや、やっぱり、蜂蜜はやめておこう……」


 慌てて頭を振ると、ドリアはお茶を飲む。


 どうやら……ドリアは蜂蜜アレルギーのようだ。


 そういえば、オレがこの世界に召喚された日の夜に、肉食花の蜜だらけのオレを抱きかかえたが、大丈夫だったのだろうか?

 だから、必死の形相で蜜を洗い流していたのか……。


 普通なら、ここで自分の身を顧みずオレを抱きかかえてくれたドリアには感謝しないといけないのだろうが、一国の王太子がそのような軽率な行動をとるとは、けしからん! とオレは思った。


 リニー少年、もしくは、部屋の外で警護していた近衛騎士を呼ぶのが、王太子として正しい行動だ。


 蜂蜜のやりとりでなんとなく、気まずい空気が漂う。


 このままでは、ケーキを美味しくいただくことができないよ。


 オレはこの場の雰囲気を変えるべく、リニー少年に用意してもらったお茶とお菓子の感想、そして、蜂蜜のお礼を伝えた。



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