第22章−1 異世界のケーキは絶品です(1)
午後のお茶の時間。
リニー少年は、三度の飯と一日数回あるお茶の時間に、ものすごくこだわりがあるようだね。
なみならぬ意気込みを感じるんだよ。
がんばって用意してくれる人たちには申し訳ないことなんだけど、魔素さえあれば生きていけるオレには、無駄な時間なんだ。
あるときはそれとなく、また、あるときはドストレートに、リニー少年に幾度となく説明しても、わかってもらえないんだよね。
で、いろいろとごねてみたんだが、ごねた結果がこうなってしまったわけだよ。
あのとき、苦し紛れに「フレドリックくんが同席して、同じものを食べるのなら食べてもいい」なんて言うんじゃなかったよ。
オレの目の前では、フレドリックくんが、マナーのお手本かと思われるくらい優雅にお茶をすすっている。
そして、一口サイズの手で摘める可愛らしいチョコレートケーキを取ると、上から、横から、斜めから、そして、最後には裏返して、じっくりと観察する。
一瞬だけためらった後、口の中へとケーキを放り込み、もぐもぐと無表情で食べはじめた。
フレドリックくんの表情には変化がないが、赤い瞳がゆらゆらと、不安定に揺れている。
……甘いものと必死に格闘しているのだろうね。
オレに食事は必要ないが、味覚は備わっており、めちゃくちゃ甘いものが好きということは、早々にバレてしまった。
この『めちゃくちゃ』とは、ものすごく甘いものが、ものすごく大好き、ということだよ。
ガツンとくる甘さがオレはとっても好きなんだ。
甘いものが苦手なフレドリックくんには、この時間は苦行に違いないけどね。
肉体派家系だったら『好き嫌いはよくない』とかなんとか言われて育ってそうだが、無理して食べることもないのに……と思ってしまう。
そして、今日はなんと、ドリアも同席しているんだよ。
国葬が終わり、頑張って執務に励んでいる王太子殿下の姿に感動した家臣たちが、ドリアに『ご褒美』として、この午後のお茶会をセッティングするように、懇願してきた。
三人でお茶というのは……よくよく考えてみたら、初めてのことなんだよね。
フレドリックくんが食べ終わったのを見届けると、ドリアはチョコレートケーキを手に取り、素早く口にいれた。
そして、「あちち」とか、王太子なら決して発してはならない言葉を小声で呟きながら、流し込むようにしてお茶を飲む。
ドリアもフレドリックくんほどではないけど、甘いものが苦手なようである。フレドリックくんは甘いもの全般だけど、ドリアはチョコレートが苦手じゃないのかな、とオレは思っている。
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お読みいただきありがとうございます。
――物語の小物――
『一口サイズの手で摘める可愛らしいチョコレートケーキ』
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023213558280655
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