第21章−5 異世界の勇者はご褒美です(5)
王太子殿下の心の支えになっているからって、あまり無茶振りはしないでほしい。
過度な期待は……ちょっぴり胃が痛い。
なにしろ、枕が変わったくらいで眠れなくなるくらいオレは繊細なんだよ。
過剰なプレッシャーは嫌なんだよ。
でも……まあ、オレは魔王だからな。
こればかりは、上にたつ者の宿命ともいえるだろう。
オレの庇護下にある魔族たちが、勝手にオレを崇拝し、心の支えにして、オレが王であることに対して、誇りを持ってくれていたことを知っている。
プレッシャーはあるが、そういう魔王になろうと、オレも陰でコッソリ努力をしている。
なので、まあ、心の支えとしたいオレのファンがたったひとり増えたところで、少しも慌てることもないのだがな……。
オレを心の支えにして業務がはかどるのなら、それでいいじゃないか……たぶん。
一日でも早く、城の外にでることができるのなら、支えでも突っ張り棒でも、なってやろうじゃないか。
動機と原動力に関しては文句のひとつも言ってやりたいが、ドリアがせっかく頑張っているのに、オレが水を差すのもよくない。
オレが「ドリアもやればちゃんとできるじゃないか」と言えるように、頑張ってほしいものだ。
ドリアは何も言わなかったが、キョロキョロと動く不審な目線を追っていると、部屋の中にある本の減り具合を確認するために、朝晩欠かさず通っているというのがわかった。
リニー少年情報によると、宰相が焚きつけたらしい。
毎日の本の減り具合をチェックして、残された時間を推測すればよい、と忠言したそうだ。
いかに集中して執務にあたらねばならないかを、ドリアに自覚してほしいと思ったかららしいが、見事に成功している。
リニー少年とフレドリックくんの王太子締め出し再教育は失敗したけど、オレとのデートをエサにした、宰相の再教育は上手くいっているようだね。
ドリア王太子、宰相がマトモなヒトでよかったな。
下手したら、傀儡政治になっててもおかしくなかったぞ。
まあ、現状、ドリアは宰相サンの手の上で、いいように転がされているとは思うんだけどな。
王城の書庫にもない貴重な本をいつまでも床の上に積み上げ、バリケード代わりに使用するわけにもいかないので、読了した本はそれぞれの持ち主に返却し、屋敷に持ち帰ってもらっている。
部屋を占拠していた膨大な量の本は、着々と減り続けていた。
ドリア王太子は、本の減り具合に焦っているのだろう。
速読スキルをフルパワーで使っていないだけ、ありがたく思ってほしいものだ。
リニー少年のパパ経由で、ドリア王太子の残務処理状況は、オレにまるわかりである。
残りの仕事量を確認しながら、オレはドリアには内緒で、読書ペースを調整していた。
オレがそんなことをしているってドリアにばれたら、アイツのことだ。また仕事をサボり始めるだろう。
まずは、「自分はやればできるんだ」「やろうとしないからできないだけなんだ」ということを、ドリア王太子にはわかって欲しい。
そんなことを考えながら、オレは読書三昧の日々を送っていた。
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