第21章−2 異世界の勇者はご褒美です(2)
いつものごとく扉を勢いよく開け、いざ、部屋に踏み込んだとたん、ドリア王太子は固まってしまった。
「ドリア。お疲れ。この本は、騎士団長と宰相サンから借りたんだ」
広かった客室は、今、花と本で埋め尽くされている。
本の壁が邪魔をして、ドリア王太子は、室内に入ることができない。
まあ、それを見越して、入口付近に本の壁をリニー少年が築いたのだが……。
リニー少年とフレドリックくん……というか、その父親たちは、快く、惜しげもなくオレに大量の本を貸してくれた。
なにがなんでも、オレに城内に留まって欲しいのだろう。
あの脅しはかなり効果的だったようである。
ふん。魔王をなめるなよ!
ふたりのアイテムボックスから、つぎからつぎへと本がでてきたときは、オレも大喜びした。
嬉しさのあまり小躍りしてしまったくらいである。
しかも、見事に、書庫でオレが読んだ本は、その中に一冊も含まれていなかった。
「貴重な本ばかりですので、ゆっくり読んでください」
「わかっているよ」
フレドリックくんに念押しされてしまったが、この部屋に集められた本は、なかなかに読み応えがあるものばかりである。
さすが、騎士団長と宰相を排出する家門の蔵書である。
軍事関係、政務関係の本がわんさかあり、統治者としては、非常に興味深い品揃えとなっている。
じっくり、いろいろ研究しながら読ませてもらおう。
両家が己の家の威信をかけて持ち込んだ本は、テーブルに載せきれるはずもない。
この部屋には本棚もないので、本には申し訳ないが、床の上に直接積み上げさせてもらった。
「マオ! フレドリック! 本がわたしの邪魔をして、そちらに行けないのだが!」
本の隙間からドリア王太子が、懸命に叫んでいる。
無理して強引に部屋に入ろうものなら、本が崩れ、オレは間違いなく、本の中に埋もれてしまうだろう。
魔王なオレが圧死することはないだろうが、オレが本に押しつぶされることを恐れて、ドリア王太子は一歩が踏み出せないでいる。
本の壁を気にせず突進してきたらどうしてやろうか、と思っていたのだが、ドリアの中にも冷静な部分が残っていたようで、少し安心した。
「王太子殿下! 国葬は終了しましたが、残務処理がまだ残っております」
ドリアの足元に、怨念のようにくっついていた近衛騎士が声をかける。
「わたしはマオとお茶をしたい……」
「だめです。そんな時間は、まだ、どこにもございません」
ドリア王太子の言葉を、背後霊のように、背中にとりついていた別の近衛騎士が遮る。
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