第21章−1 異世界の勇者はご褒美です(1)

 ようやく国葬最終日。

 オレの異世界生活も十九日目となっていた。


 その間、オレは城の中から一歩も外にだしてもらえていないけどな。


 朝から鐘が鳴り続けていたが、昼過ぎには鐘の音も聞こえなくなっていた。


 国葬が終了し、大神官長の遺体は火葬され、魂は煙とともに天に召されるそうだ。


 書庫で得た知識によると、この世界の葬儀は、オレのいた世界と同じ理由により火葬となっている。


 灰はそのまま風に任せ、大地に還す。


 遺品はあるが、遺髪とか遺骨とかはない。


 土葬や骨など残していたら、ゾンビやスケルトンなど、アンデット系の魔物になってしまうからだ。


 大神官長クラスのヒトがアンデットになったり、成仏できずに魂がこの世に残ったら、実際のところかなりの被害が発生する。


 それを防ぐためにも、国民が一丸となって感謝の祈りを捧げ、大神官長の魂を天に送るのだ。


 送るというか、「さっさと、あちらの世界に行ってください」って追い立てる。


 何回も討伐されて、死ぬ苦しみを味わっているオレだが、実際に『あっちの世界』には行ったことがないので、よくわからないが……。


 ……というバックボーンがあるにもかかわらず、なにかと隙を見つけては、抜け出そうとするドリア王太子にも困ったものである。


「マオ……一体、この量の本は……」


 昼過ぎに、国葬が無事に終了すると、ドリア王太子は、迷いも躊躇いもなく、一直線にオレがいる客室へと向かってきた。


 オレへの執着が容赦なくて怖い……。


 隠れてコソコソされるよりは、オープンな方がまだいいのだろうか?


 そういえば、歴代の男勇者の中には、ストーカー被害にあっていて、男ストーカーに刺された直後に召喚された奴がいた。


 その勇者は、オレを討伐した後、絶対に、元の世界には帰りたくないって喚いていたそうだ。


 まあ、世の中、色々あるわな。


 五人の近衛騎士が、全力でもってドリア王太子を押し留めようとするが、『マオめがけてまっしぐら』なドリアの執念の方が勝るようである。


 近衛騎士が非力ではない……と思う。


 ドリア王太子のステータスの方が、圧倒的に勝っているのだろう。


 ドリア王太子は、近衛騎士たちを身体にくっつけたまま、そのままズリズリとオレの部屋にやってきたのである。


 あったぞ、あったぞ、そういう描写が『不可思議怪奇奇譚』の十八巻にあった。


 今夜もひとりで眠れません……決定の瞬間だった。


「なんだ? この本だらけな部屋は! 本屋でもはじめるのか?」




***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る