第20章−8 異世界の監禁は退屈です(8)

「王太子殿下が真面目に国葬に参加するなら、国葬期間中、勇者様の外出を阻止し、王太子殿下が希望されている『初王都見学デート』を叶えると……」

「宰相サンが提示したのか?」

「はい……」


 オレは額に手をやり、天を仰ぐ……。

 リニー少年が勢いよく、床に跪いた。

 フレドリックくんもオレを解放すると、追従するかたちで跪き、頭を下げた。


「勇者様! 父に代わり、お詫びいたします」


 床に額をこすりつけるかのように、リニー少年は頭を下げる。


 なんで、リニー少年がここまで必死にならなきゃいけないんだ?


「勇者様……あの王太子殿下が、勇者様との初デートを心の支えに、二週間も国葬に参加しているのです。これは、まぎれもない奇跡です。わたしたちとしましては、がんばっている王太子殿下に、ご褒美を用意したくなります」


 フレドリックくんもこれ以上は下げようがない、というくらい頭を下げる。

 これでオレが「わかった」と言わなければ、靴を舐めそうな勢いだ。


「……はあ……」


 オレは必死なふたりを呆れ顔で見下ろす。

 なんだか、どっと疲れた。


「オレの負けだ……。興が冷めた」


 正直、王太子がなぜそこまでオレに執着するのかわからないので不気味だが、健気というか、涙ぐましいというか……。


 もう、ここまできたら、毒食らわば皿までだ。


 王太子のいじらしいワガママにつきあってやるか、という気持ちになっていた。


 でないと、フレドリックくんやリニー少年が困るだろう。


「そのかわり、フレドリックくんの家にあって、書庫に未収蔵の本を、一冊残らず持ってくるように。それで『国葬が無事に終了し、事後の処理が終了するまで』大人しくしておいてやる」

「ありがとうございます」


 今、ここでオレが短気をおこして、外に出てしまったら、ふたり仲良く『役立たずは処分』とかになってしまっても嫌だしな……。


 軍事関連や筋肉関連の蔵書にはあまり興味がなかったが、誰もが納得しそうな適当な落とし所をオレは提示する。


 フレドリックくんは深々と頭を下げる。


「勇者様! わたくしの家にある『不可思議怪奇奇譚』の五十一巻も、あわせてお貸しします!」

「いや、リニーくん、それはいらないから!」


 速攻で断りを入れる。


 この子はいきなり、なんて恐ろしいことを言ってくれるんだ。


 五十一巻なんか読んだら、まちがいなく、オレの心臓は恐怖のあまり停止してしまうだろう。


 だが、宰相家の蔵書にも興味がある。


「リニーくんのお父さんと相談して、書庫にはない、オレが喜びそうな別の本を持ってきてくれ。それで、転移阻害の結界についての無礼はチャラにしてやる」

「わかりました!」


 涙で濡れたリニー少年の顔に、笑顔が戻る。


 うん、うん。

 リニー少年には笑顔でいてほしい。


 自分の息子だからって、遠慮なく無茶振りする宰相サンには困ったものだ。


「そうそう、リニーくんのお父さんには、『ふざけた本をチョイスしたらマジコロス』って、忘れずに伝えといてくれよな」

「わ……わかりました。必ず、伝えておきます」


 オレの冷え冷えとした声に、リニー少年がぶるりと震え上がる。


 『不可思議怪奇奇譚』は平気でも、魔王の威圧は怖いようである。


 子どもって、可愛い生き物だなぁ……。




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お読みいただきありがとうございます。

魔王様も怒ったら怖いのです。ソレ以上に怖がりではありますが……。

えーと次回は……っていうか、そろそろ城のお外にでたいですよね?

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

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